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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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巫女の部屋

 眠気をこらえながらの朝食会はあまり楽しいものではなかった。

 半分眠ったような体と頭では食べる気分にならなかったこともあるし、探るような質問も鬱陶しくて早々に切り上げてしまった。微妙に気まずい感じを残してしまったが、ご機嫌取りをしてやるほどの義理もない。


 美女で俺を囲むのは良い。迎えから始まり、食事会も美女ばかりだ。神殿の中には普通に男もいたから、女ばかりの組織でないことは確実だ。だがそれが問題だ。中途半端な接待には、むしろ苛立ちを覚える。

 さっさと予定を消化して、ジウリアのところにしけこみたいものだ。

 あらかじめ昼メシは不要と伝えておき、巫女との会談の時間までは昼寝にあててしまった。



 起こされる前に目覚めてぼーっとしていると、世話係のようなのがやってきて着替えやタオルを渡された。


「浴場へご案内いたします。巫女様との会談の折には、そちらをお召しになってください」


 身だしなみというやつだろう。文句はない。

 案内されるままに一人で風呂に入り、着替え、無精ひげを剃って、失礼のないように準備を終えた。

 相手は重鎮、大神殿の巫女だ。どんな奴か知らないが眠気も取れてさっぱりしたし、きちっとしていこう。


 案内係が途中からニコーレに変わると、これからのことを簡単に説明してくれる。


「巫女様とは奥の間でお会いになっていただきます。私も同席させていただきますが、基本的には巫女様と大門様とでご歓談ください」


 仰々しい謁見のような方式とは違うらしい。気軽でいいが、他人事ながらセキュリティ面を気にしてしまう。近くには護衛がいるのだろうが、俺が巫女に害意を持っていれば守ろうにも間に合わないはずだ。もしかしたら巫女やニコーレに、なにか有用な特殊能力があるのかもしれない。別に俺が心配することではないが。


「歓談? 魔神のことが聞きたいんじゃなかったか?」

「それも含めてですね。明日も同様の予定がありますので、本日は顔合わせの意味が強いとお考えください。込み入った内容もあるかと思いますので……」


 込み入った話か。俺にはないが、こいつらにはあるということだ。たぶんマクスウェルが言っていた、教国にいるかもしれない魔神のことだろう。


「いきなり深い話もしにくいだろうしな。雑談から始めるか」


 異存はない。マクスウェルからは口止めされている事柄もないし、知っていることは雑談のネタに話してしまっていいだろう。こっちからも特殊能力は雑談のなかで聞いてしまいたい。


「それと大門様。申し訳ないのですが、巫女様の前ではあまり砕けた調子というのは……」

「ああ、気を付ける。そういやあんたも実は偉いさんだったよな」


 今さら遅いが、かなり失礼な態度の連続だったはずだ。腹の中ではどう思われているか分からんな。

 仕切り直しだ。巫女相手にはビシッと決めてやる。


「私のことはお構いなく。これまで通りでお願いします。さ、到着しました。こちらにどうぞ」


 人けのない通路を奥へ奥へと進んでいった先、もう道順も分からない場所には両開きの扉があった。

 門番もおらず、ニコーレが扉を開いて招き入れようとしてくれる。


 逐電亡匿の特殊能力は発動中だ。レーダーにはたくさんの人間の反応がある。隣の部屋だと思うが、護衛はいるようだな。なにもするつもりはないが、なぜかこっちが安心してしまう。

 招かれるまま部屋に入ると、そのインパクトの強さに圧倒された。


 待ち構える巫女はいい。思ったよりも若い感じの中年女性だと思うが、綺麗な女だ。清純を絵に描いたような姿で、純白と紺の神殿関係者の衣装が良く似合う。緋色の袴ではないが、どこか『巫女』という感じを彷彿とさせ、個人的な想像と現実を一致させる。不思議なものだ。


 それよりも驚くのは部屋で、まず目を引くのは滝だ。部屋のなかに滝がある。

 明らかに人工物だが、岩っぽい壁の上から水が流れ、下の小さな泉に向かって落ちている。多量の水ではないので、音や水飛沫みずしぶきはそれほどではないが、涼し気だし部屋のなかだとそれなりに迫力がある。


 間接照明を使った薄暗い暖色のライティングは夕暮れを連想させ、時間の感覚をどうにも狂わせる。

 その他の観葉植物なども多く、秘密の部屋というよりは屋内なのに秘密の庭っぽい空気を演出している。なかなか面白い部屋だ。


 巫女の近くに移動しながら顔を動かさずに目線だけで色々と観察するが、かなり好奇心を刺激される部屋だ。なにか訪問者に対する心理的な狙いがあるのだろう。


「ようこそ、刑死者の勇者様」


 ニコーレに先導されるままに近づくと、向こうから挨拶された。穏やかで優しそうな雰囲気だ。


「お初にお目に掛かります、巫女様。刑死者の勇者と呼ばれる大門トオルです。お招きありがとうございます」


 堅苦しいのは苦手だ。舌を噛みそうになる。


「勇者様、ここは公の場ではありません。よろしければ良き友人として語らいませんか? 私のことはどうぞ、カテリーナとお呼びいただければと思います」


 ちらりとニコーレを見れば、目でいいよと言っている。なるほど。だったら少しは砕けたほうがいいか。砕けすぎるのは良くなさそうだが。


「じゃあカテリーナ様と呼ばせてもらいます。俺のこともトオルでいいですよ」

「ふふっ、まだ少し硬いですね。良き友人としてですので、いつも通りで構いませんのに」


 普段のざっくばらんな態度のことを言っているのだろうか。またもやちらりとニコーレを見るが、今度は目でダメだと言っている。


「……普段の調子はさすがに失礼に当たりますので」

「そうですか? ではまずはお茶などいかがです?」

「いただきましょう」


 歓談らしい雰囲気になってきたら、もう少し砕けて行こう。

 緊張はしないが、見張っているニコーレが少し怖い。

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