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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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身持ちの堅い女【Others Side】

 バルディア王国の王都から南の国境へ、そして国境を越えてリエージュ・シャトレ教国の大神殿まで、到着にはそれなりの日数が掛かります。

 特に教国に入ってからの馬車移動で、刑死者の勇者は非常に疲れていました。


 せっかくの美人と二人きりの馬車の密室にもかかわらず、セクハラをする元気どころか、ほぼ寝たきりで過ごすことになってしまったのです。久しぶりの馬車での移動や想定外の悪路とあって、酷い体調不良に悩まされることになってしまいました。

 魔神を倒した勇者でありながら、非常に情けない姿を晒してしまったことにもなります。


 当然のことながら、途中で馬車を降りて乗馬での移動を申し出ることになりましたが、セキュリティ上の懸念と公式の巫女からの招待という建前もあって勝手なことは許されません。

 美女に優しく介抱されながらの旅路でなければ、刑死者の勇者は間違いなく外交問題に発展する事態を引き起こしてしまったことでしょう。美女からのお願いによって、辛うじて我慢を続けられたことになります。


 グロッキーのような状態になりながら到着した大神殿で、彼は巫女との会談どころではなく、丸一日に渡って寝込むことになりました。

 その間、案内役を務めた大司教は、主である巫女に報告を行います。


「……では何も分からなかったということですか?」

「残念ながら。道中の仕込みも完全に寝入ってしまった勇者様は気が付いておられず、無駄に終わっています」


 教国に入ってからは勇者の力を試すための仕込みがあったのですが、乗り物酔いで気分が悪かった刑死者の勇者は無反応でした。

 仕込みというよりは、わざわざ危険の多い盗賊や魔物が頻発するルートを移動していたのです。


 刑死者の勇者は実は完全に寝入っていたわけではありませんでしたから、逐電亡匿の特殊能力によって、周辺の異常には気が付いていました。しかし大勢いる美女の集団が護衛も兼ねていることを察知してもいました。そのために自分が出る幕はないと、一切合切を無視していたのです。


 周囲で巻き起こる戦闘音と怒号を無視して寝入る姿は大物のようでもあり、単なるマヌケのようでもありました。同行していた大司教にとっても判断は難しいところです。


「しかしあの方は間違いなく第一種指定災害討伐の立役者です。魔神討伐の英雄であることも、おそらくは間違いないのではと思うのですが……」

「では、あえて無視していた可能性があるということですか。ほかの者の報告からではただの女好きとしか思えないのですが、ニコーレは以前に会っているのですからね。必要性が不明ですが、実力を隠していると考えるべきかもしれません。もしくは本当に体調が悪く動けなかった可能性もありますか」


 ニコーレ大司教は、第一種指定災害であるフルフュールが現れた際にその森で馬車に乗っていました。その時に聖堂騎士と共に刑死者の勇者に救われています。


「まさか馬車に酔われるとは想定外でした」

「仕方ありません。良いでしょう、まだ機会はあります」

「こう申し上げるのも恐れ多いのですが、刑死者の勇者様は女性からのお願いごとであれば、断られないような気がします……道中での印象に過ぎないのですが」


 微妙な空気が流れました。英雄色を好むとはいいますが、貞淑な女性がその存在を身近にした場合には戸惑うことも多いでしょう。


「そうであれば、ニコーレから色々とお願いしてみるのが良いでしょうね」

「もちろん構わないのですが、見返りを求められないか不安です。我々は神に身を捧げておりますので、お応えするわけにも参りませんし」

「……我慢していただきましょう。とにかく、勇者様の動向には注意してください」

「すでに見張りは厳重に立てております」


 美女ばかりながらも、身持ちの硬い集団でした。色を好みまくっている刑死者の勇者としては、非常に残念なことです。



 ところで刑死者の勇者はこれまでにおよそ十日ばかりの旅をしてきました。

 その間は移動と野営ばかりで、禁欲生活を送っていたことになります。自然の摂理として、そろそろ限界に達している状況と考えられます。

 体調不良でも馬車から降りて一日も休めば元気になりますし、もう移動は終わっています。そうであれば行動あるのみです。


 刑死者の勇者とは欲望に忠実な男です。

 しかしながら、ゲストとして招かれた大神殿という場所で欲望を吐き出すような真似はできません。その程度の常識は持ち合わせていました。

 すなわち、街に出れば良いのです。


 ここは世界的に有名な大神殿のある場所です。

 もちろんのこと、ポツンと神殿だけがあるのではなく、大きな街となっている所でもあります。

 身持ちの固い神殿関係者がいる一方、多くの人が集まる街となれば、それなりの娯楽施設や夜にこそ一層の賑わいを見せる区画もまた存在します。


 様々な法規制はあれど、人間の欲望を掻き消すことはできません。それに加えてリエージュ・シャトレの宗教では愛の神やそれに類する神々も存在しています。表向きの建前はあっても、夜の神々を否定することができない以上、屁理屈でも理屈が通るならば性風俗産業も存在を許すしかありません。またそういった仕事でしか収入を得られない人や、ある種の利権なども絡み、一部の潔癖な人間が文句を付けたところで揺るがない構造にもなっています。


 もちろん刑死者の勇者は事情を知らず、ただ闇雲に、欲望の赴くままに行動をおこすのみです。

 逐電亡匿の特殊能力を使った勇者は、厳重な見張りをあっさりと掻い潜り、夜の街に繰り出すのでした。

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