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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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リエージュ・シャトレ大神殿【Others Side】

 荘厳な神殿の最奥、一部の許可を得た者しか立ち入ることのできない部屋には、三人の女がいました。


「たったいま、魔神が討たれました」


 そこはバルディア王国の南、リエージュ・シャトレ教国の大神殿の一室です。

 大神殿の主である巫女が感知した出来事、そして実際に起こった出来事を短く発しました。


 巫女は巫女のみが持つとされる特殊能力によって、魔神の出現や討伐を感知することができるのです。ただし、各魔神との相性の問題によって完全に把握することができない事情もあり、具体的な言及ができないのは大きな欠点でした。


 おおよそであれ魔神の位置は分かりませんし、完全な個体数を把握もできていません。討伐は感知できるのですが、どこでされたかは分かりません。ただ減ったことだけが分かります。

 それでも、何もかもが不明であるよりは遥かに有益な情報となるため、重要な地位にいることになります。


「素晴らしいことです。伝説に聞く魔神の討伐となると、やはり勇者様による偉業でしょうか。マリア様はなにかご存じですか?」


 巫女の従者が相槌を打ちながら、この場にいるもう一人の女へ問い掛けます。


「実際に魔神の脅威を知らないので何とも言えないのですが、きっと勇者の誰かなのでしょう。いずれにしても具体的なところは情報を待つしかないですね。おそらく場所としては、バルディア王国で倒されたのでしょうが」


 鷹揚に答えたのは、マリアと呼ばれた少女です。彼女は神宮じんぐうマリアこと、女教皇の勇者でした。

 バルディア王国南の国境付近、そこの魔物討伐に向かったはずの彼女でしたが、王都には戻らずに国境を越えて大神殿を訪れていました。


「事は魔神の討伐です。もしバルディア王国でなかったとしても、大々的に喧伝してくれるでしょう。誰がどのようにして成し遂げたのか、すぐに知れ渡ると思います。むしろ脚色されていない情報の取得に気を払わなくてはなりませんね」


 四十歳前後の年齢と思われる巫女が冷静に後を繋ぎました。

 巫女はリエージュ・シャトレ教国のみならず、世界において重要な人物です。その立場に相応しい落ち着いた佇まいをした女は、教国が迎えた少女に温かい目線を送ります。


 世界各国がそうであるように、リエージュ・シャトレ教国もまた勇者の引き抜き工作には余念がありませんでした。

 特に熱望していたのは、教皇の勇者と女教皇の勇者でした。理由としてはその名称にあり、なぜならば教国を治めるトップの役職は『教皇』と呼ばれているからです。

 勇者が冠するアルカナの名称を単なる名称とは考えず、意味のあるものとして捉えている教国でしたので、その二者を望むのは当然でもあります。


 教皇の勇者こと、剣道少年でもある長谷川マサヒロの勧誘には失敗しましたが、女教皇の勇者の勧誘については上手くいくことができました。その結果として、神宮マリアはこの場にいることになります。


「巫女様、おそらく我が国にも魔神は潜んでいることと思います。早急に情報を入手し、対策を練るよう手配いたします」

「ええ、潜んでいた魔神の活発化は間違いないでしょう。今なら所在を突き止めやすくなっていることと思います。大司教や聖堂騎士からも一部の勇者様に関する情報は入っていますが、魔神の情報は最も重要です。抜かりないよう手配を頼みましたよ」


 従者は巫女と勇者に頷くと、指示を伝えるために退出しました。


「教国はマリア様も含め、三名の勇者様をお迎えすることができました。心強いことです」

「三人で全てを守り切るのは難しいと思いますが、できるだけのことはするつもりです。ただ、初めに言っておくと女教皇の能力は、多くの聖堂騎士に犠牲を強いるものになりますよ?」

「それが教国を守る騎士の役目でもあります。勇者様にして、我が国の『女教皇』となられるお方のご命令とあれば、どのような艱難辛苦とて乗り越えて見せるでしょう」


 リエージュ・シャトレ教国にとって、女教皇の勇者は特別です。現教皇は空位となっており、女教皇の勇者という伝説の存在がその地位に就くことがあれば、国家として盤石であると広く国民の間では信じられていました。


 もちろんのこと、大人の事情や思惑など、様々な要因もあってのことですが、教皇の地位はあくまでも象徴としての地位ですので、実質的な権限というものは希薄です。

 国家のかじ取りは、主として大神殿の巫女派閥、および政務を司る部署が行うことになります。勇者という神輿は担ぐうえで最上の神輿となるでしょう。なにより国民が歓迎することはほぼ確定しているのですから。


「その覚悟があればと思いますが、やはりもう少し勇者が欲しいですね。三人いても直接的な戦闘を得意としている者は残念ながらいません」

「恋人の勇者様と運命の輪の勇者様は、たしかに戦いが得意なようには見えませんね」


 納得して見せる巫女ですが、勇者は勇者とも思っています。女教皇、恋人、運命の輪、一見すると誰もが頼りない少女なのですが、特殊能力こそが強力であることを承知していれば、見た目の貧弱さなどは些細なことです。期待せざるを得ません。


「ええ、やはり戦闘巧者の勇者が欲しく思います。もし引き込めなくても、有事の際には巻き込めるような手を打っておきたいです」

「ではマリア様がご存じの情報をできる限り詳細にお教えください。方法は皆で考えましょう」


 勇者の特殊能力は、一般の人々とは明確に異なる特別に強力なものです。

 もし、各勇者の特性を熟知し、適切に運用せしめることができたとするならば、これ以上ないほどの采配となるでしょう。しかしながら、全ての国家や勇者が緊密な協力体制にない以上、無理な相談です。

 ただし、個別にでも能力を把握しておけば、色々と考えようも出てくるというものです。

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