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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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禁断の開放感

 それにしても疲れた。猿顔の化物の恐ろしさはゴブリンとは比較にならない。

 謎の勇者の力に助けられて運良く勝つことはできたが、こんな無茶は二度とゴメンだ。


 実際に何度か攻撃を受けてしまったし、どういう理由でか無事に済んだが、こんな幸運が次もあるとは思えない。

 ましてやその幸運が俺のような人間に何度も訪れるはずはない。


 事前の情報も武器もなしに未知の敵との戦いなんて無謀に過ぎるし、それをやらせるほうもどうかしている。

 あの、なんとか大臣のおっさんには文句のひとつも言ってやらなきゃ気が済まないな。


 周囲に目を向ければ、戦いの跡は凄惨なものだ。

 茂っていたはずの草や木々は全て燃え尽き、黒々とした燃えカスが残るのみだ。ざっと見た感じ、半径五十メートルは燃えカスしかなさそうに思える。

 さらに化物が振り回した手足によってか、そこら中の地面がえぐれているし、いくつかあったはずの大きな岩は砕かれて随分と小さくなってしまった。


 もし、これが街の中で起こったなら、それこそ地獄絵図となったことだろう。

 是非ともこの化け物の客観的な脅威度を知りたいものだ。凄まじいまでの耐久力と、特に炎が危険だな。絶対ヤバイ奴だろ。



 全裸で野外にいる心許なさを感じていると、街門が重々しく開き始めた。

 まだ開き切らないうちから飛び出してくる一台の馬車は見覚えのあるものだ。それもそのはず、俺が乗ってきた馬車だ。


 ようやくお迎えか。

 全裸な上に、血塗れ、煤塗れで真っ黒になっている姿はどう見えるんだろうな。激闘を潜り抜けたように見えるのか、それとも単なる間抜けか。

 まあいい、とにかく風呂に入って休みたい。


 駆けつけた馬車から降りる大臣のおっさんは、俺の姿を見ると顔を青くしながら気遣った。


「勇者殿、ご無事ですか!?」


 心配してくれているらしいが、窮地に放り込んだ張本人が言ったんじゃ、ありがたみも感じない。

 効果があるか分からないが、軽く睨みながら一言物申す。


「おい、あんな化物とやるなんて聞いてねぇぞ!」

「ええっ!? 刑死者の勇者殿は戦意旺盛、発展途上なれど戦闘力は比類なく、どんな敵であれ問題なしと王国守護騎士団の副団長より伺っておりますぞ。ご謙遜なさらずとも良いではありませんか! しかし、かの魔物を本当に独りで倒してしまうとは、やはり勇者殿は話に違わぬ素晴らしい力を持っておられますな。感服しましたぞ!」


 悪びれずに笑顔を浮かべて賞賛する姿は、演技だとしたら大したものだ。多分、こいつは天然だろうが。

 何を言っても無駄そうなこのおっさんに怒りをぶつけるのもバカバカしい。一気に疲れを感じてこの場は抑えることにして文句をつけるのを諦めた。


 全裸で汚れたまま馬車に乗り込むと毛布を渡される。

 馬車の中は閉ざされた空間だが、特に裸族というわけでもないから全裸でいるのは落ち着かない。素直に羽織ると、やっと一息つけた。


 大臣が興奮したように話しかけてくるのを適当にやり過ごしながら、疲れからボーっと馬車に揺られる。

 やはり慣れてきたのか、短時間の搭乗では吐き気を感じない。長時間や未舗装の道では耐えられないだろうが、少し慣れただけでも地味に嬉しい。



 王宮に到着すると裏口近くまで運んでくれるが、そこでは降りずに馬車小屋まで同行すると伝える。

 汚れた体のまま煌びやかで丁寧に清掃された城の中に入る気はせず、馬車を止めておく場所の近くにあった水場で体を洗うことにした。


「勇者殿にそのようなことをさせるわけにはいきませんぞ! 汚れなど気にせず個室の風呂でも大浴場でも使ってくだされ!」

「軽く汚れを落としたら、そっちを使わせて貰うさ。いいから少し待ってろ」


 律儀に馬車小屋にまで一緒についてきた大臣のおっさんに構わず、豪快に水を頭からかぶって体を軽く洗う。

 気候は春のようで、朝晩は少し肌寒いが日中は暑いくらいだ。今はまだ日も高いし、水は冷たいが気持ちいい。全裸の開放感に目覚めてしまいそうだ。中途半端に体を隠すのは返って恥ずかしいからな。堂々と全てを晒す。


 心ゆくまで、全身が真っ黒になるほどに汚れた血と煤を洗い流すと、御者がどこからか持ってきてくれたらしい布で体を拭った。


「ふぅー、さっぱりした。とりあえずメシだ。昼メシには少し遅いかもしれないが、用意はしてくれるんだろ?」

「もちろんです、すぐに手配しましょう」


 気の利く御者が簡素な服まで持ってきてくれたらしく、やっと全裸ではなくなった。

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