魅惑の委員長タイプ
新たなグシオンの出現に対し、司令所の雰囲気が張りつめる。
騎士三百人が決死の覚悟で挑むほどの魔物だ。一匹増えただけでも、それは大変な事態で間違いない。
それに加えてこれで打ち止めだという保証はどこにもない。一匹いたのなら、二匹、三匹と増えても不思議なことは何もない。
レアな魔物のバーゲンセールだな。
「隊長さんよ、とりあえず先に群れてるグシオンどもをなんとかしてくる。そうすりゃ、索敵に掛けられる人数も増やせるだろ? そいつらを倒した後でなら、索敵には俺も協力してやる。探すのは割と得意なほうなんでな」
グシオンほどの魔物なら、レーダー感度は薄くても十分に引っかけられる。範囲だけに絞って意識すれば、逐電亡匿の索敵範囲はかなり広げられる。
山だから高低差は気にしなければならないが、ただ強い魔物の反応のみを拾う精度であればそれなりの範囲を一度で索敵可能だ。無論、山全体となれば厳しいが、そこは騎士団と手分けすればいい。
「では討伐は勇者殿にお任せします。索敵のご協力にも感謝しますが、そこは我々でなんとかするつもりです。討伐に注力してください」
そう言うならそれいい。出しゃばるつもりはない。
さり気なく逐電亡匿のレーダーを発動し探った結果、今のところこの近辺にグシオンやそれに匹敵するような魔物はいない。しかし当たり前だが魔物は移動する。いつこの司令所にやってくるか知れたものではない。
指揮系統を維持させるためにも、ここの守りは固めておく必要があるな。
「分かった。グシオンは俺がやる。ああ、そういや見張ってる勇者が三人いるとか言ってたな? だったら四人でやるか」
「なにを言っているの? 私たちも行くわ」
委員長っぽい女子が食って掛かるように言う。気の強い女だ。
「グシオンどもがどこをうろついてるか分からん状況だ。この場の守りだっているんじゃねぇか? なあ、隊長さん」
「足を引っ張ってしまうのは申し訳ないですが、残っていただけるなら助かります」
「ということだ。全員で行かなくても倒すだけなら十分だろ? お前らはイレギュラーに備えてろ」
手駒が多いというのは、こういう時に助かる。
「待って! 私は行くわ。道案内はいるはずよ」
場所が砦ということは道なりに行けばいいはずだ。道案内など不要だろう。
だが頑なな様子の女を説得するのは手間だ。そんな手間をかけるのは面倒臭すぎる。
「ったく、分かった分かった。お前だけ付いてこい」
「えー、あたしも見たいよー」
「ヒカル、遊びじゃないんだから仕方ないよ」
「そうだけど。ミサオちゃんずるいよー」
「ごめんなさい、どうしてもこの目で見ておきたいの」
なんだか分からんが、委員長女子の俺を見る視線が熱いな。まさか惚れられたか?
悪党面をものともしないとは、さすがは委員長タイプだ。きっとかつては日常的に不良男子を注意して回ったりしていたのだろう。
……ふぅ、くだらん妄想をしてしまった。
さて、そろそろ行くかと思ったところで、またもや異変だ。
「なんだ、この派手な音は。一足先にグシオンとおっぱじめやがったか?」
遠くのほうから音が聞こえた。戦闘音だろう。
「勇者殿。これは西の方角からのようです。砦は北方向なので、グシオンの群れとは別口ですが、もしかたしたら追加で出現したグシオンやもしれません」
「ああ、もう一匹出たって奴か。だとすると、一匹で暴れるはずはねぇ。誰か戦ってやがるな」
別に誰でもいいか、とにかくそっちを助けに行こう。もし勇者が戦っているなら出番はないかもしれないが、索敵中の騎士の場合には救援がいる。
「よし、行ってくる」
「早くこっちへ、付いてきて!」
勝手に走り出す委員長。最短距離で行くつもりなのか、山道を逸れて西の方向に行ってしまった。
仕方なしに追いかける。
何度も大きな音が聞こえることから、やはり戦闘中なのは間違いなさそうだ。
派手にやってやがる。これだとグシオンの群れを呼び寄せてしまうだろうに。アホな奴だ。
それに派手な戦闘ということは、グシオンのあの防御力に苦戦を強いられているのだろう。あっさりと終わるなら、派手な音が続くことはない。
誰だろうが、ここまできて見殺しにするのも忍びないな。急ごう。
「委員長、遅いぞ!」
「だ、誰がいいんちょ、きゃあっ!?」
前を走っていた委員長女子だが、速度が遅くてこれでは助けられるものも助けられない。
置き去りにするのもなんだから、抱き上げて連れて行ってやることにした。
場所なら音の聞こえてきた方に向かっていけばいいだけだ。それにレーダーの範囲に入れば、即座に詳細な位置まで掴める。
後ろからお姫様抱っこの形で抱きかかえると、スローモーションの世界に突入し、本気で走り始めた。
何事かをうるさく喚く口を塞いで完全に無視し、運び賃としてどさくさに紛れて体を触りまくりながら山の道なき道を駆け抜ける。
勇者用の装備なのか、軽装鎧が邪魔で肝心なところには触れないが、まあしょうがない。




