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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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切り札を使う騎士団長【Others Side】

 バルディア王国の王都近傍にある山から救援信号が上がったことは、即座に把握されていました。

 無論のこと、王都駐留の騎士団によってです。


 魔物の異常発生など、異変を知らせるための砦は各所にあり、応援を向かわせるということはそれなりにあったことでもあります。

 しかし、今回のように『最優先で緊急を知らせる信号』というのは非常に珍しいものでした。


 王都近傍で緊急事態の発生。にわかに緊張感を呼び覚ます事態です。

 場所柄ゆえに、駆け付けるべき援軍は王都に駐留している部隊となります。

 馬車では三、四時間掛かる場所ですが、急げばもっと早く現場に到着できますし、それが求められている場面でもあります。


 ただし、山中とあっては大部隊を展開させることは難しい地理条件です。

 騎士団長アルノーは、即座に動かせる騎士のみで編成された大隊を派遣し、一時的な対処と情報の取得を行うことを決めました。

 次いで非常事態に備えて軍団に準備を急がせ、さらなる保険を掛けることも忘れません。



 緊急出動を命じられた大隊の騎士三百名が慌ただしく王都を出発した頃、魔物退治のスペシャリストが呼び出されていました。


「おう、団長。久しぶりだな。緊急の呼び出しとは穏やかじゃねぇが……」


 昼間から歓楽街で新規開拓をするべく、情報収集にいそしんでいた刑死者の勇者でしたが、慌ただしく自分を探す監視者を哀れに思いました。

 得意の逐電亡匿ちくでんぼうとくによる隠密態勢を解除し、話を聞くことにしたのです。その伝言によって、騎士団を訪れることになりました。


「大門殿、休みのところを済まないな。詳細は分からんのだが、どうやら緊急事態なのだ」


 いつになく真剣な様子のアルノー団長には、刑死者の勇者も軽口を叩く気にはなれません。


「詳細不明かよ。まぁ身軽に動けるのが俺の良さではあるからな。で、どうしたよ。分かる範囲で話してみろ」


 騎士団長は緊急の救援信号が上がったことと、それが通常の魔物程度であれば使われないことを説明し、推測として指定災害が発生したものと伝えました。

 昨今の危険な魔物が頻発している状況から、妥当な推測でしょう。そして当たってもいます。


「……なるほどな。いいだろう、行ってきてやる。緊急だから契約は事後になるが、忘れんなよ?」

「当然だ。現場の内容に応じて、双方納得のできる報酬を出そう」

「おう。んじゃさっそく、と行きてぇところだが。第一種指定災害だった場合には、俺だけじゃ無理かもしれねぇ。戦いには相性ってもんがあるからな。念のため、ほかの勇者も行かせられんなら、行かせろよ」


 戦いに赴く刑死者の勇者としても、油断はできません。

 正体不明の魔物と相対することのリスクは、できる限り低減させておかなければ命にかかわります。


「それなら心配いらん。別の魔物退治で、六人の勇者殿が現地付近にはいるはずだ」

「なに、六人? もうそいつらがいれば大丈夫なんじゃねぇか? わざわざ俺が行くまでもねぇだろ」


 たった一人でも大きな戦力である勇者が六人です。もう十分と思うのはそのとおりですが、刑死者の勇者は実績が抜きん出ています。

 騎士団長としては、王都近傍で起こりつつある危険の対処には、最初から切り札を使いたい思惑があります。楽観や油断は許されません。


「大門殿が駆けつけた時には、すでに解決しているかもしれんな。だが、それはそれで良いではないか。もし無駄足になったとしても、報酬は出そう」

「それならいいけどよ」


 その後、すでに騎士の大隊を派遣していることと、もしもの時のために軍団の出撃準備中であること、道案内の話もすると、さっそく行動に移ります。


「では頼むぞ、大門殿」

「任せとけ。さくっと終わらせて戻るから、たまには飲みに行こうぜ」

「それもいいな。急な仕事の礼も含めて俺が奢ろう」

「言ったな? んじゃ、なるべく早く戻る」


 奢りの約束に気をよくした刑死者の勇者は、案内の騎士と共に王都を出発しました。


 道中では山から情報を伝えにやってきた伝令にも遭遇して状況を知ることができ、念願のグシオンとの再戦に心を躍らせるのでした。

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