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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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駆けつける想定外の援軍【Others Side】

 グシオンは巨体を誇る魔物ですが、大柄な体躯からは信じられないほどの移動速度を叩き出します。

 その速さは身体能力に優れた勇者をも上回るもので、速度を上昇させる特殊能力でもない限りは、圧倒されるばかりでした。


 ただし、勇者と言う存在も伊達ではありません。

 速さで劣っていても漫然と攻撃を受けることはなく、時に防御し、時にタイミングを見計らって避けるなど、なんとか対処しています。


 しかしです。魔物の攻撃に対処できていることで、一定の戦闘は成り立っていますが、問題は依然として残ったままです。


「どうやって倒す!? どれだけ剣をぶつけても効いてないぞ!」


 彼らが持つ大技を何発も放っていましたが、グシオンにはダメージらしいダメージが見られません。


「目でも狙うか!?」

「あの速度で狙えるか! なにか手はないのか!」


 男子二人には打開策がなく、自然と女帝の勇者に視線が向きました。

 すると彼女は待っていたように答えます。


「完全に動きを封じる魔法はありますが、発動に時間がかかりますわ!」

「よし、ボクが時間を稼ぐ! 魔法に集中してくれ!」

「だったら俺もだ! 藤原さんに任せたぞ!」


 動きを封じる魔法を発動させるため、男子は時間稼ぎに力を尽くします。


「回数勝負で行く! 長谷川はボクに合わせてくれ!」

「二つ合わせれば多少はマシになるな! 分かった、こっちで合わせる!」


 グシオンの動きが止まった瞬間を見計らい、足止めのための魔法を使いました。


「止めてみせる! 石棺の凝集せっかんのぎょうしゅう、石棺の凝集、石棺の凝集、気力が尽きるまで重ねてやるぞ!」


 魔物を石で固めようとしますが即座に剥がされます。ですが、間髪置かずに石で固めて歩みを進めさせません。

 すると苛立った魔物は勢いよく炎を吐き出し、敵を焼き尽くそうとしました。


「させるか! 聖壁の断絶(せいへきのだんぜつ)!」


 辺り一面を焼き尽くそうかという広範囲に撒き散らされる炎でしたが、白っぽい半透明な巨壁がそれを阻みます。


 何度も何度も石で動きを阻害し、半透明の巨壁でもって炎の濁流をせき止めるのですが、力の行使には気力も体力を消費することもあって、長時間続けられるものではありません。

 足止めを買って出た二人は早く早くと祈るばかりです。


 今か今かと思う時が過ぎ、女帝の勇者が微笑みました。


「……よくやってくれましたわね、あとはわたくしで決着をつけます……女帝にして金の星を司るわたくしをご覧なさい、宵の明星(よいのみょうじょう)


 魔法の言葉と同時にグシオンは魅入られたように動きを止めました。まるで女帝の勇者から視線を剥がせず、身動きまで封じられたかのようです。


明けの明星(あけのみょうじょう)


 続けて次の魔法の発動です。恐ろしくも禍々しい第二種指定災害の凝視を受けながら、女帝の勇者はいっそ優雅と思える仕草で次の魔法を行使しました。

 暴風を纏った状態の高速で剣を前に突き出し、滑るようにグシオンに向かうと、その切っ先が吸い込まれるように目玉に突き刺さったのです。


 剣は脳まで破壊しつくし、魔物がビクンと身体を震わせると、そのまま倒れました。

 豪快に倒れた魔物を警戒していた三人ですが、十数秒もするとようやく肩の力を抜きました。


「藤原さん、よくやってくれた。悪いがボクはもう限界が近い」

「俺もすぐ横になりたいくらいだ。魔法は便利だが、燃費が良くないな」

「まだ十二体も残っていますわよ?」


 女帝の勇者の軽口に男子二人は嫌な顔をしましたが、事実は事実です。

 しかしやり方が分かった以上、ほかの勇者の協力もあれば、各個撃破なら問題ないと自信を付けてもいました。


「……とにかく戻って体を休めよう」

「ああ、ほかのがいつ動き出すか分からないしな。休める時に休んでおこう。厳しいがなんとかするしかないんだ」



 やってきた道を戻ろうとした、その時です。

 ドンッと重量物が地面を叩くような音が聞こえたと思ったら、女帝の勇者が吹っ飛ばされました。


「ぎゃっ!?」


 短い悲鳴と血を零しながら地面に叩きつけられています。

 それだけではありません。

 悲鳴すら上げられないまま、教皇の勇者も体をくの字に曲げて倒れ伏しています。


 残された審判の勇者は最後に攻撃されたことで、辛うじて不意打ちを逃れることができました。

 襲撃者の正体は姿を見るまでもなく察せられましたが、やはり思った通りです。


「はぐれグシオンがもう一体!? くそっ」


 瞬時の判断で勝ち目がないことを悟りますが、彼にできることは少ないです。

 必殺を誇ったはずの攻撃はグシオンには通用しません。審判の勇者が現状で使い得る最高の攻撃を首に直撃させても傷一つ与えられなかったのですから。


 動きを阻害する魔法も使えますが、女帝の勇者ほどの拘束力もありません。あったとしても魔法発動にかかる時間を稼ぐことができませんので、結局は無理です。


 逃げるにしても速度はグシオンのほうが上です。逃げ切れるものではありません。


 審判の勇者に残された選択肢は、仲間を呼び寄せる以外にはありませんでした。

 司令所に待機している正義、力、太陽の勇者が駆けつけてくれれば、助かる可能性は出てきます。このままでは仲間諸共に、悲惨な運命をたどることになってしまいます。


「やるしかないっ! 憤激の断罪(ふんげきのだんざい)!」


 強力な攻撃を魔物ではなく、大きな岩に向かって叩きつけました。

 豪快に破壊され、谷全体に轟くような音が鳴りましたので、山のどこにいても耳にすることができたでしょう。


 審判の勇者は忘れています。

 呼び寄せることになるのは、果たして仲間だけでしょうか?



 残り少ない体力を振り絞るようにして、幾度か巨岩を破壊した審判の勇者でしたが、ここで新たな参戦者を目撃することになります。


 それは大きな猿のような、極めて禍々しい魔物。一体ではなく、続々と姿を現します。

 山間の谷底には、合計で十三体の元気なグシオンと、倒れた勇者が二人、そしてたった一人の疲れ切った勇者がいることになります。


 委員長然とした男子は、絶望で目の前が真っ暗になりました。

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