初めての第二種指定災害【Others Side】
数多のゴブリン、その焼死体を踏みつぶしながら歩くのは、一体の第二種指定災害でした。
女帝、教皇、審判の勇者の三人は、山の斜面から見下ろす形でそれを観察しています。
「はぐれグシオンか。たしかに一匹だけだ」
「あれほどの禍々しい気配なら、ほかにもいればすぐに気づくな」
「倒せるのであれば倒してしまいたいのですが、弱点らしい弱点はないと聞きますわよ? なにか手が?」
男子二人は顔を見合わせました。
「手も何もない。不意打ちで片付けよう」
「だったらボクが首を狙う。仕留めそこなった時には、頼む」
「三段構えですわね」
「俺が鬼丸に続いて心臓を狙う。藤原さんは最後の詰めを頼むよ」
「それで構いませんわ」
ざっくりとした方針を定めますが、彼らは全員が剣を使うシンプルな戦士です。それ以外にやりようがないとも言います。
「本気で行く。まずは足止めするから続いてくれ」
「出し惜しみ無しだ。俺も本気で仕留める気でやる」
「今はあの魔物だけに集中しましょう」
早く済ませなければ、状況が変わってしまうかもしれません。
チャンスは一度のつもりで、さっそく審判の勇者が仕掛けました。
「いくぞ。捕らえろ、石棺の凝集!」
まずは山の斜面を駆け下りながら、動きを封じる魔法を発動しました。
するとグシオンの足元から細かい石が急速に湧き出し、魔物を絡め捕ったのです。足元から胸のあたりまでを石が覆うと、セメントで固めたようになりました。
「これで、決める! 憤激の断罪!」
動きの止まったグシオンに対し、剣を振りかぶった審判の勇者が迫ります。その剣は雷が纏わりつくかのように、雷光を放っていました。
委員長男子は歯を食いしばって、斜面から飛び降りざま渾身の一撃を首に叩き込みます。
これまでに首を落とせなかったことはなく、ただ切るだけではなく雷撃によるダメージまで与える彼の必殺技でもありました。
これで決着、いつもであれば剣が振り抜かれるはずですが、逆にはじき返されました。
「な、なにぃいいい!?」
驚く暇もなく身じろぎしただけで石の拘束を解いたグシオンは、宙に浮かんだままの審判の勇者を殴りつけました。
「鬼丸!?」
吹っ飛ばされる様を目の当たりにした教皇の勇者も焦ります。完全に想定外ですが、今更引き返すこともできません。
勇者らしく覚悟を決めると、自らの本気を見せてやると意気込みました。
「これならどうだっ! 穿て、血盟の裁定!」
少し距離のある場所から、剣を突き出しました。どう見ても届きません。
しかし彼の魔法が発動すると、銀の剣先から血のように赤い刀身が発生して伸び、グシオンの心臓のあたりを穿たんと突き立ったのです。
凡百の魔物であれば一撃必殺。ですが相手はグシオンです。
何事もなかったように赤い刀身を手で掴んで圧し折ると、異常な速度で教皇の勇者に迫り、無造作に殴りつけました。
あっさりと退けられた勇者二人でしたが、女帝の勇者は怯みません。
彼女はより一層の闘志を高め、グシオンを倒すべく集中を高めました。もう後戻りはできないのです。
やるしか、ありません。
三段構えの最後はしかし、やられた二人を見ている分、多少なりとも敵を理解しています。同じ轍を踏むのは愚か者のすることです。
「……明けの明星」
金星の別名である呼称を口にすると、女帝の勇者は暴風をその身に纏いました。
直後、まるでジェットエンジンを装着したかのような速度でグシオンに迫ります。
速い敵にはそれを上回る速度で対抗するのです。彼女は速度には自信がありました。
瞬きする間もない攻撃は、それでもグシオンの硬い皮膚に阻まれます。
女帝の勇者のすれ違いざまの一撃は、間違いなくグシオンの腹を捕らえていましたが、ダメージらしいダメージは与えられていません。
すれ違ったまま距離を取り、仕切り直すべく審判と教皇の勇者の様子を見ると、二人は立ち上がろうとしてるところでした。
仁王立ちのグシオンを迂回すると、一旦合流します。
「二人とも、無事!?」
「くそっ、上級打撃耐性を抜かれた。当たりどころが悪ければ、ただじゃ済まないぞ」
「力もそうだが速さもマズい。あの速度じゃ、ボクは付いていけないかもしれないな。それにあの硬さ、あそこまで硬いとは……攻撃が効いた感じが全然しない」
命にかかわるような怪我はしていませんでしたが、上級打撃耐性の能力を上回る攻撃で、ダメージを負っていました。
グシオンの力、速度、そしてなにより防御力を実感し、三人の勇者は指定災害と呼ばれる魔物の恐ろしさを痛感するのでした。
「回復は必要かしら?」
「その時間があったら、あとで頼む!」
「ボクもだっ」
距離を取った勇者たちに、グシオンが迫っていました。




