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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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もどかしい時間【Others Side】

 グシオンを間近にした騎士団は、緊張を隠すことができませんでしたが、女帝の勇者が一緒にいることは心強く思っていました。

 女帝の勇者はベテランの騎士からしてみれば、娘、もしくは孫のような年齢の少女に過ぎませんが、不思議と安心感を与える存在でした。


 人並外れた美貌は女神の化身のようであり、剣を腰に佩いた凛々しい立ち姿は伝説に聞く戦乙女のようにも見えたのです。

 口ではグシオンに勝てないと言いながらも、なんと頼もしい存在感か。そのように思われていました。


 女帝の勇者こと藤原ヒメカはお嬢様然とした女子高生でしたが、実際にお嬢様であり、幼いころより人の上に立つべき存在として教育されてきました。

 まだ少女と言える年齢ながらも、自然と頼りにされてしまう女子なのです。


 そんな彼女は冷静に状況を見極める目を持っていましたが、同時に善良でした。その点について、委員長然とした正義の勇者とは気が合うのでしたが、冷酷になりきれないのは弱点となる恐れもあります。

 善良な女帝の勇者は決して騎士を見殺しにすることはできないでしょう。



 グシオンからは察知されないよう、山中に部隊を展開させた騎士団ですが、山中は見通しが悪いです。

 どこまで悟られずに見張りを完遂できるか、非常に難しい問題でした。

 まずは偵察行動に優れた人員が軽装で動き、それ以外の人員は下がって待機します。


 仮の司令所としたのはただの森の中でしたが、そこには六人の勇者が集まっていました。


「本当に勝てそうにないのか? 十二体いても分散しているようなら、各個撃破できるかもしれないぞ」

「鬼丸くん、実際に見てきたらいいのではないかしら? ここでわたくしと天理さんがいくら言っても納得できないのでしょう?」


 百聞は一見に如かずです。女帝の勇者も実績を上げているほかの若者たちが、根拠もなく魔物を恐れたりしないのは理解しています。皮肉ではなく、一度見てこいと言っているのです。


「いや、君を信じていないのではなく、もし倒せるのであれば一匹でも数を減らしたほうが良くはないか?」

「俺は鬼丸に賛成だ。十二体を相手取るのは無謀としても、一体だけならどうにかなるんじゃないか? それに俺たちは勇者だ。魔神との戦いを考えれば、第二種指定災害如きを恐れているわけにもいかないだろ」


 強気の意見には一定の説得力があります。

 女帝の勇者としても、一体や二体ならばどうにかできると考えてはいましたが、ほかの固体に悟られずに倒せるとまでは思えなかったのです。


 戦闘の気配に引き寄せられて、結局は十二体のグシオンが集まってしまうかもしれません。そうなれば絶望的な乱戦です。全滅さえ覚悟しなければなりません。

 さらには勇者が全滅すれば、騎士も全滅を免れない事態です。慎重に慎重を重ねて、それでもまだ心配は尽きません。


「藤原さん、とにかく一度見せたほうが早いわ。それに男子の意見も分からなくもないから、倒せるなら倒すというのは賛成よ。ただし、確実に一体ずつでなら、だけど」

「ええ、複数体を相手取るのはリスクが高すぎますわ。天理さん、ここを任せても?」

「いいけど藤原さんがみんなの案内を?」

「万が一を考えて、勇者は分散しておくべきですわ。朝影さんと中原さんもここに残ったほうが良いですわね」


 戦闘狂ではない女子二人は仕切り役に任せるようですが、委員長女子は少し納得できません。


「私が行っても変わらないと思うけど?」

「どうせやるのなら、わたくしが試してみたいだけですわ。ここは譲ってくださいな」


 正直に言われてしまっては、なかなか返す言葉もありません。

 結局のところ、この場にグシオンがやってこないとも限りませんので、二手に分かれるのは仕方がないことでもありました。



 方針を決めた女帝の勇者は仕切ります。まるで自らがリーダーであると主張するように、女帝らしく堂々と。


「鬼丸くん、長谷川くん、この場はわたくしに従ってください」


 男子二人は心の中では少し不満に思いましたが、それを表に出すことはしませんでした。将来はいい夫になりそうな少年たちです


「まずグシオンをその目で見てもらいましょう。そして脅威度を認知してから、全てのグシオンの位置を把握します。その上で、単独でいる固体がいれば仕掛ける。これでよろしいですわね?」


 有無を言わせぬ雰囲気で告げると、大人しく頷く男子に満足しました。



 随時送られてくる伝令の情報を頼りに向かったのは、意外にも砦の跡地でした。

 グシオンの群れは休憩でもするかのようにその場から動いていなかったのです。騎士の偵察要員は離れた場所から観察し、これと同時にほかの固体がいないか山中を探索しているところです。


「……あれがグシオン……聞きしに勝る禍々しさだ。かなりヤバそうだな」

「いかにも凶悪といった姿かたちだ。藤原さんとミサオが危険というのも分かるな」

「援軍を待つ身としては、ああして動かないでいてくれるのは助かりますわね。少し残念な気もしますが……」


 男子二人は複雑です。見るからに狂暴で凶悪、体の大きな魔物は、話に聞いた以上です。姿もそうでしたが、実際にその目で見て感じた恐ろしさは話以上でした。直感的に複数を相手取った場合には、勝利の目がないことを理解してしまったのです。それどころか単独でも危ういと。


「……あんなのを一人で倒した奴がいるのか。鬼丸、やれそうか?」

「やってみなくては何とも言えん。正直に言えば一人でやるのは気が進まないが……」


 グシオンは群れたままなので仕掛ける状況にはありません。このまま様子見としたところで、一人の騎士が近寄ってきました。


「勇者殿、よろしいですか」

「どうしたのかしら?」

「ここより西の谷に、一匹でいるグシオンを発見しました。まだいるかもしれませんので、お気を付けを」


 司令所に走る伝令を見送りましたが、谷という場所が気にかかります。


「谷って、もしかしてゴブリンを倒した場所か?」

「そうだろうな。藤原さん、行ってみないか?」

「あの谷に一匹であれば、仕掛けてみるのも良いですわね……」


 意見を一致させた三人の勇者は、急ぎ谷に向かいました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今日読み始めましたがすごい好みだし、other sideのナレーションみたいなのが新しくて面白いと思います! [気になる点] すこし、他の勇者の誰が誰かわかりにくいので(教皇、皇帝、正義…
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