脅威への対処【Others Side】
「騎士団のほうに行って参りますわ。状況を知らせないと」
「じゃあ私は戻ってみんなに伝えてくる。騎士団は退かないでしょうから、みんなをこっちに連れてくるわね」
「ええ、ここでは様子に見にとどめて、もっと援軍を送ってもらうよう騎士には伝えます」
役割分担を終えると、二人は動き出しました。
女帝の勇者はグシオンに発見されないよう、慎重に遠回りで騎士の元へ駆けつけると、起こっている事態を伝えようとします。
整備された山道を馬で駆け上っていた騎士団は、突如として現れた美貌の勇者に戸惑いましたが、状況から部隊長は砦の件であると察しました。
行軍を停止すると、部隊長と勇者は向き合います。
「これは勇者殿、ご足労でした」
「いえ、救援信号を見てこられたのですよね? 事態は想定を上回っていると思いますわよ」
「どういうことですかな?」
女帝の勇者は淡々と事実のみを伝えます。
救助を待つ者どころか、砦がすでに破壊されつくしていること。
第二種指定災害であるグシオンが最低でも十二体は存在していること。
自身を含めて近くに勇者は六名いるが、疲労状態にあって討伐は厳しいこと。
万全の状態であったとしてもグシオンを十二体も倒すことは不可能と女帝の勇者は考えていましたが、そこまで伝えることは不要であるとの判断が入っています。
「……砦の付近にはその人数を展開できる場所はありませんわ。そしてわたくしたちだけでの討伐は不可能です。この場は様子を見るにとどめ、大軍で包囲殲滅できるような場所への誘導が必要かと思いますわ」
部隊長を含め騎士たちは、グシオンが十二体という異常事態に反応ができません。
第二種指定災害は、それが一体であっても大隊規模の騎士が決死の覚悟で挑む魔物です。それが十二体となれば、どれほどの犠牲を出せば勝利できるのか。
先遣隊として部隊は大隊規模、およそ三百名が派遣されていましたが、たしかに目的地の砦付近で、その人数全てが戦闘行為をするには狭いです。
まして炎による範囲攻撃を行うグシオン、それも十二体となればとても戦う環境にはありません。
そして頼るべき勇者は疲労もあって討伐は不可能と断言し、様子見にとどめよと言うではありませんか。
いっそのこと逃げてしまいたい衝動に駆られる騎士ですが、彼らは騎士です。子供の使いではありません。果たすべき仕事があります。
美貌の勇者が嘘を並べ立てる可能性はなく、時間が勝負の状況で部隊長も即座に決断を下しました。
「副官、聞いていたな? 急ぎ王都に伝令を出せ!」
「了解しました! グシオンが十二体以上出現、砦は破壊され、疲労した勇者様六名が帯同するも、対処不能、至急援軍を乞う! 以上で伝令を出します!」
「確実に伝えろ!」
短いやり取りのあと、副官は馬術に優れた伝令役の元に去っていきました。
「さて、勇者殿。グシオンが十二体とは前代未聞の緊急事態です。我々では立ち向かったところで犬死にですが、一匹たりとも見失うわけにはいきません。ご助力願えますか?」
「当然ですわ。協力してこの局面をなんとかしましょう」
一方、正義の勇者は遅れている仲間の元へと舞い戻っています。
なにが起きたかを伝えると、やはり実物を目にしなければ脅威はなかなか伝わりません。仲間たちの返答はどこか緊張感に欠けるものでした。
「え、グシオンって第二種指定災害だよね? 十二体?」
「一人当たり二体の計算か。砦は残念なことだったが……俺たちならいけそうか?」
力の勇者が戸惑った声を上げ、教皇の勇者は強気を見せます。
「んー、攻撃もサポートも今日は魔法使い過ぎてるからなー。ミサオちゃん、第二種指定災害って実際どうだったの?」
「刑死者の勇者は単独で倒したという魔物だ。数は多いが、ボクたちなら倒せるんじゃないか?」
実物を目の当たりにした正義の勇者は、楽観的な考えを即座に否定します。
「みんな、よく聞いて。あれは今の私たちには荷が重い。手を出さずに監視を続けて援軍を待つわ。これは藤原さんも同意見よ」
常には強気なはずの彼女から、淡々と告げられる言葉に真実味が重く宿ります。
しかし、若き勇者とて第四種指定災害を討伐したばかりです。
種類は違っても無傷で指定災害を排除できた自信と自負があります。
「とにかく付いてきて。話はあとよ」
正義の勇者は、納得できていない仲間に向かって告げると、焦りもあって移動を始めてしまいました。
実際に時間に余裕はありません。この間にもグシオンは移動をしてしまうかもしれないのです。
もしかしたら騎士団に襲い掛かろうとしている可能性もあるのですから、善良な心根を持った彼女は焦りもするでしょう。




