大量の雑魚敵への消耗【Others Side】
バルディア王国の騎士団が各地で魔物討伐に精を出していたころ、同じく若き勇者たちも駆り出され、その類まれな力を存分に発揮することとなりました。
王都近傍の山間の谷、そこに向かうことになったのは、女帝、力、教皇、審判、正義、太陽と呼ばれる勇者たちです。
当初は聞いていた魔物が見当たらず、何日も王都と現場を行ったり来たりしていたものでしたが、そんな彼らは今まさにツケが溜まっていたかのような激闘の最中でした。
谷底の細い岩場となっている地形、そこを埋め尽くすような数の魔物と戦う羽目になっていたのです。
「このままでは飲み込まれます! 一度後退を、態勢を建て直すべきですわっ」
「あーもう、しつこいっ! 仕切り直したいけどっ、このまま下がっても押し込まれるよ!?」
「正面は俺が押さえる! 朝影さんはその隙にでかいの頼むっ」
「左はボクがなんとかする、右はミサオっ!」
「当然っ」
戦っている魔物はゴブリンです。勇者に掛かれば有象無象の雑魚でしかない魔物でしたが、今回の場合には数が多いです。
第四種指定災害となるほど数が多く、勇者が六人も揃っていながら、苦戦を余儀なくされる大群でした。
倒しても倒しても死体を踏み越えて波のように魔物が押し寄せます。
「おおおっ、聖壁の断絶!」
教皇の勇者が叫ぶと、白っぽい半透明の巨壁が出現しました。すると雪崩のように押し寄せるゴブリンを完全に押しとどめることに成功したのです。
「くっ、あまり時間は持たないっ、朝影さん!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、大きいの行くよー! みんな下がって!」
一斉に後退すると、今度は太陽の勇者が力の限り魔法を行使しました。
「これで決めちゃうっ! 紅炎の虹」
直後、半透明の巨壁の向こう側に深紅のアーチがいくつも架かりました。
アーチの直下には膨大な熱が生まれ、ゴブリンの群れは哀れにも焼かれていきます。
「ヒカルっ! まだ奥にいるよっ、もう少し!」
「うえーっ、これでもう限界だからーっ!」
振り絞るような魔法は深紅のアーチをさらに重ね、谷底の岩場を灼熱地獄のように変えていきました。
群れとして固まっていたゴブリンに抵抗の術はありません。
焼かれる苦悶に上げる断末魔の絶叫が谷に響き渡り、本物の地獄の如き光景となっています。
若き勇者たちは固唾を飲みながら見守ります。
魔物を殺害することへの抵抗感はもうかなり薄らいだ彼らでしたが、目の前の凄惨な光景には言葉を失いました。
夥しい群れが焼かれ、絶叫を上げながら死んでいく様は、これまでに経験してきた魔物討伐とも一線を画しています。
しかし、彼らももう新米ではありません。
折り合いを付けられる程度の経験は積んでいました。
こうして彼らは持てる力を存分に発揮し、ゴブリンの大量発生による第四種指定災害を見事に討伐してみせたのです。
「はぁ……数は多かったですが、なんとかなりましたわね」
「もー疲れたよー」
「どのくらい倒したんだろ? さすがにもういないと思うけど、これがゴブリンじゃなかったらヤバかったかもね」
第四種指定災害は、一定以上の数の魔物が出現した際の呼称です。主となる魔物の脅威度によって最低限の数の目安はありますが、上限はありません。どれだけ多くても第四種指定災害と呼ばれます。
この場における戦闘では、およそ二千余りの魔物が討伐されていました。記録的な数です。
「谷底の狭い地形が幸いしたな。広い場所だったら取りこぼしも多かったろうし、一気に殲滅は無理だったと思う。第四種指定災害か、やっぱり侮れないな」
「ああ、だが逆に言えばゴブリン程度であれば、あれ程の数でもなんとかできる。ミサオ、だから言っただろう? ボクたちだって勇者なんだ。刑死者にできるのなら、ボクたちにもできないはずはない」
「……そうね。少し考えすぎていたのかもしれないわ」
正義の勇者である天理ミサオは、『指定災害』の討伐について楽観していませんでした。
彼女は第一種指定災害の脅威を事後であれ認識し、第四種についても同じように警戒していたのです。
実際にゴブリン程度の弱い魔物であっても、決して楽に勝利することはできなかったのです。
しかし審判の勇者の言うように、力を合わせることさえできれば、チームとして挑むのであれば、第一種指定災害をも討伐できる可能性も感じることができていました。
今回の第四種指定災害の討伐は、正義の勇者にとっては良い経験になったと言えるでしょう。
「ここの後始末は、わたくしたちだけでは不可能ですわ。場所を変えて休息、ほかにも異変はないか様子を見てから戻りましょう」
「異論はないわ。さすがの剣捌きだったわよ、藤原さん」
「天理さんこそ。あなたの果断な攻勢には学ぶべきところが多いです。今後ともよろしくお願いしますわね」
「あれー? なんか友情が芽生えてるー?」
「なんかいい感じだよね」
健闘を称えあう女帝、正義の勇者の二人だけではなく、厳しい戦闘を一緒に乗り切ったメンバー一同には、どこか気安い雰囲気が生まれていました。
「鬼丸、俺たちも男同士、上手くやっていこう」
「ああ、そうだな長谷川。このチームではどうにも女子に主導権が行きがちだが、上手く行くならそれでもいい。ボクたちで支えて行こう」
教皇、審判の勇者である男同士でも友情が育まれていました。
脅威が去り気が緩んだ状況になりましたが、しかし、まさにこの時。異変を知らせる一つの合図が上がったのです。




