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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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期間限定のお付き合い

 ロージーはナンパ野郎をヤバいと評するが、話を聞くだけでも普通にヤバそうだ。

 アンドリューから俺の強さを聞いて、ボディガードにって考えたのだろう。

 気のない男、それも恐怖を感じるような男から言い寄られても、迷惑でしかない。


 惚れた女を落とそうとする努力に反比例している結果には男として同情の余地を禁じ得ないが、やり方が不味い。こうなってくるとその野郎にアドバイスの一つもしたくなってくるが。


「あたしも惚れさせてナンボの職業ですからね。いつもなら客にしてしまうところなんですけど、実はほかの女の子に声を掛けてるのを見たことがあって」

「なんだ、本当にただのナンパ野郎じゃねぇか」

「ナンパなら良かったんですけどね。そいつ、女の子を殴りつけて攫って行ったんですよ」

「なに?」


 男相手の暴力だけではなく、女にまで手を上げるのか。しかも攫っただと?


「あたし、その女の子とは友達ってわけじゃないんですけど、顔だけは知ってたんですよ。で、共通の別の友達から聞いたんですけど、その子、攫われて酷い目に遭わされたらしくて……」


 女が暴力を振るわれた上に攫われたんだ。なにをされたか簡単に想像はつく。反吐が出る野郎だ。


「お前もいつそうなるか分からんな。よし、そいつをぶちのめせばいいんだな?」

「ぶちのめして欲しいのは欲しいんですけど、あいつ、あたしは彼氏がいるから無理って言ったら、それが本当なら諦めるから彼氏に会わせろって言うんですよ」


 なんだそりゃ。面倒な感じになってきたな。

 しかもだ。聞いていた話と違う。


「彼氏、いんのか?」

「フリーだって言いましたよね? しつこいから嘘ついただけですって」


 ふぅ、下がりかけたテンションが持ち直した。


「じゃあ俺が彼氏ですって登場すりゃ、その変態野郎は諦めるってことか。とてもそうは思えんがな」

「ですよね。絶対に襲って俺のほうが強いだろって言い出すに決まってる」


 そいつがどれほど強くても、俺がナンパ野郎如きに負けるなどあり得ない。

 堂々とそいつを倒せば、さすがに諦めるだろう。というか、諦めさせてやる。


「じゃあ、俺がお前の男として、そいつをぶちのめしやれば解決だ。ついでに衛兵に引き渡してやろう。そうすりゃ問題はなくなるな」

「でも、そいつ本当に強いんで……」

「なに、任せとけ。期間限定だが、今からはお前は俺の女だ。死んでも守ってやるよ」

「期間限定?」


 まだロージーと長い付き合いをしていくと決められるほどの材料はない。

 いい女だが、とりあえずは期間限定が互いのためにもいいだろう。

 俺は『フリ』などという器用な真似はできないからな。やるなら本気でだ。本気で俺の女になってもらう。


 当然、報酬だってきっちり払わせる。もちろん女としてだ。俺の女になるのだから報酬というのもおかしいが、文句はないだろう。

 あらかじめオリビアから覚悟を決めておけと伝え貰っているはずだから、そんなつもりじゃなかったなどとは言わせない。


「野郎を牢にぶち込むまでのな。それでだ。相談事ってのは、これで終わりだな?」

「もう、あんまりがっつかないでくださいよ。はぁー、大門さんなら解決してくれるってアンドリューさんが言ってましたけど、やっぱり魔物退治を専門にやってるくらいだから、かなり強いんですね」

「まぁ喧嘩で負けることはねぇだろうな。そういや、ナンパ野郎はどういう感じなんだ? やっぱり筋骨隆々とした強面か?」

「それが生意気そうなガキなんですよ。まだ思春期って感じの」


 おいおい、ちょっと待て。ガキ?

 めっぽう強いガキってことは、アンドリューが言っていた野郎と同一人物?

 モズライト組のシマで暴れるガキは、女を攫うとも言っていたな。どう考えても偶然ではない。同じ野郎と考えるべきだ。


 まさかアンドリューがそれに気づかないはずはない。保険を掛けていやがったな。

 例え俺がアンドリューの頼みを断ったとしても、ロージーの頼みなら断らない。偶然の一致にしても、説明を端折るとは不義理な奴だ。


 しかし面倒なことになった。ナンパ野郎が勇者だった場合、不意打ちができなくなる。

 モズライト組の様子を探るだけなら、そのついでに逐電亡匿で不意打ちをすれば倒せるかと考えていたが、ロージーの彼氏として会う必要があるなら正面から戦うことになってしまう。


 破格の特殊能力を持った勇者と正面からタイマンか。なかなかリスクが高い。

 何か手を考えたいが……。


「……どうしたんですか? 急に黙り込んで」

「いや、なんでもねぇ。そんなことより、もう俺の女でいいんだな?」

「期間限定、ですけどね」

「それでも彼氏彼女らしくしとかねぇと、ボロが出るぞ。俺のことはトオルでいい」

「トオルさん、ですか。ふふっ、いいですね」

「話し方も普通にしろ。もうキャストと客の関係じゃねぇだろ?」

「……それもそうね。じゃあトオル、今からあたしの彼氏」


 その瞬間に襲い掛かった。我慢の限界はとっくに超えている。


「やっ、ちょっと! ま、待ってって……」



 ……朝まで濃密な時間を過ごすことになったが、どういうわけか異常に興奮した。

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