不安の残るチーム分け【Others Side】
警戒態勢にあった王国騎士団ですが、その慎重さは功を奏し、各地で魔物との激しい戦いが巻き起こっていました。
しかし騎士団だけでは手が回らない場所もあり、若き勇者たちにも出動の要請が出ることになりました。
「今回は僕たちだけでの行軍になる。いよいよ本格化してきたということになるだろうね」
これまで彼らは独自で動くことを禁止されていました。
破格の強さを誇っていても、貴重な存在であるために安全第一でやってきたのです。
戦闘訓練で勇者同士のみのチームを組む場合でも、必ず近くに騎士のバックアップがありました。
ですが今回の事態に際しては王国騎士団は非常に忙しく、勇者たちもかなりの力を付けてきていることから、過保護は一旦取りやめることにした事情があります。
「王都の守護に数名だけ残して、ほかは全員で出撃しようと思う。要請された場所は二か所だから二手に分かれようと考えているけど、どうする?」
年長者の魔術師の勇者が代表して音頭を取りました。
本来であれば特殊能力の相性など、チーム編成は慎重に考慮すべき点となるはずですが、若き勇者たちはまとまりがありません。
魔術師の勇者が勝手に決めようものなら反発が予想されますので、彼は文句の言われない志願制にしました。あらかじめ騎士団によって編成が決められていたとしても、若者たちはきっと無視していたでしょう。
「松平君、二か所の場所を聞いてもいいか?」
最初に質問を投げたのは皇帝の勇者です。どことなく偉そうな雰囲気があります。
「一か所は王都の北西、谷になっている場所で、ここからそう遠くないね。馬車で三、四時間らしい。もう一か所は結構遠くて、南の国境付近だってさ。どっちも敵の強さと数はそれほどでもないらしい。勇者の僕たちに掛かればね」
「あたしは南に行く! リエージュ・シャトレの近くでしょ? 一度行ってみたかったのよね」
割り込むように、ロリっぽい美少女が主張しました。
「南の国境か……良ければ俺もそちらに行こう」
「助かるよ。遠いし、希望者はいないかと思ってた。でも他国にまで行くのはマズいから気を付けてくれよ。僕たちは戦力でもあるんだから、下手したらバルディア王国が攻め込ませたと思われるかもしれない」
前もっての連絡がなければ、強大な力を持つ勇者の侵入は恐ろしい事態でしょう。
誤解を避ける意味でも、彼らに迂闊な真似をすることは許されません。ただの観光目的であっても、誤解されてしまっては大事になります。
「あなたに言われなくても、下手を打つわけないでしょう。私もそちらに行きます」
「俺もそっちに行ってみようかな。初めて行く場所になるし」
「だったら俺も行くぜ。綺麗な姉ちゃんとかいそうだしよ、国境さえ越えなきゃいいんだろ?」
ほかにも次々と面倒なはずの場所に希望者が集いまいました。
進行する魔術師の勇者はどこか不安そうにしながらも、ホッとした顔で希望者をメモしています。
結局のところ、南の国境付近へ向かう勇者は、全部で七名となりました。
恋人、皇帝、女教皇、愚者、戦車、隠者、運命の輪と呼ばれる勇者たちです。
遠征場所の国境付近ですが、バルディア王国の南には、広大な領土を持つ宗教国家があります。
ロリっぽい美少女である恋人の勇者が言っていたように、リエージュ・シャトレがその国名です。
リエージュ・シャトレは国教によってまとまりのある国民性と、荘厳な装いの聖堂騎士団が有名どころとなっていますが、特に有名なのは巫女のいる大神殿になるでしょう。
大神殿では巫女によって魔神の出現が告げられることもあり、世界において知らぬ者のいない重要な場所でもあります。
また、宗教が起因するのかは定かでありませんが、見目麗しい男女が多いことで知られる国家でもありました。若者にとっては興味を引かれる要素となるでしょう。
「あとは北西の谷だけど、同じくらいの人数がいいかな」
「わたくしが参りましょう。一人でも十分だと思いますが」
再び魔術師の勇者が声を掛けると、即座にお嬢様然とした美少女が応えました。ただ座っているだけの姿も牡丹の花のように艶やかです。
「一人なんてダメだよ、ヒメちゃん。あたしも行くから、トモエちゃんも行こうよ!」
「ちょっと、またヒカルは勝手に。まぁいいけど。マサヒロも行く?」
「君たちが行くのなら、是非もない」
お嬢様の独断を許さず、明るい少女がフレンドリーに仲良しを誘っています。
誘われたレスリング少女が坊主の剣道少年を誘うと、いつかの合宿で組んだメンバーが揃う形になりました。
女帝、太陽、力、教皇の勇者がすんなりと討伐メンバーに決まりました。
「四人か。戦力的には十分かもしれないけど、もう少し安全マージンを考えたいね。ほかに希望者がいなければ僕が行こうか」
さすがは勇者のまとめ役です。色々と考えているようですが、少しだけ面倒臭そうです。年頃の貴族の女子にモテる彼は私生活が忙しかったのですが、それは全くもって余談でしょう。
「いや、ボクが行こう。ミサオも行かないか?」
「……うん、そうね」
委員長男子と、どこか気もそぞろな委員長女子の参戦も決まったようです。
「これだけ行ってくれるなら、今回は僕は留守番でも良さそうだ。詳しいことは騎士団から説明があるから、あとは任せるよ」
ずいぶんとあっさり決まったことを意外に思いつつも、魔術師の勇者は自分が行かなくて済むことを喜ぶと同時に、どこか不安を覚えてもいました。しかし具体的に分からない不安は飲み込み、休めることを素直に喜ぶことにしたのでした。
魔物退治に出撃する勇者は全部で十三人。
それ以外の勇者は九人になります。
魔術師、塔、星、節制。この四人の勇者は、同じ場で待機組となることを明言し、もしもの場合の王都の防衛に努めます。
悪魔の勇者は最近では王宮にも近寄りませんので、いないものと見做されていました。乱暴者で口の悪い彼は全員に嫌われていましたので、いないことを歓迎されている寂しい少年です。
いつの間にかどこかに出奔してしまった世界の勇者については、少し寂しく思う勇者もいましたが、どうにもできません。言葉にするだけで寂しくなることもありますし、勝手に出て行った彼女には思うところのある者もいますから、今では話題を避けられる存在になっていました。
そしてはぐれ者となってしまった刑死者、月、死神の勇者です。
若き勇者たちにとっては想定外の活躍もあり、こちらもあえて話題に出さない雰囲気になりつつあります。
初めてのサポートなしでの遠征。勇者たちの状況に少しずつ動きが表れ始めていました。




