希望する褒賞
出せる金貨には限界があるのは理解した。その理由に納得もしよう。
だが地位と名誉は本当に要らない。
収入だけが得られる都合の良い領地というのも怪しい。
マクスウェルは嘘を吐いていないとしても、どうせなんだかんだと面倒事が舞い込むに決まっている。
それに領地を得たなら、実質がどうであろうと俺が領主になってしまう。義務というものが生じるわけだ。俺のような無頼漢が領地や領民に責任を持つなど無理な話だ。とてもではないが、受けられん。
「事情は分かったけどよ。マジで金貨以外は要らねぇぞ。ほかになんかねぇのか?」
「ほか、と言われましても。むしろ大門殿になにか希望はないのですか?」
たしかに。要らないと言い張るなら、俺から代わりの要望を伝えるのがスジか。
「そうは言っても金以外は別にな。放棄するわけにもいかんだろうし……」
「大門殿、今回は事が事ですので、褒賞の放棄は無理だと思います。諸外国から勇者様を軽んじていると勘違いされる恐れもありますので」
なにかと面倒が付きまとうな。
「この件で引っ張るのもな。ちょっと待ってくれ、すぐになんか適当なのを考える」
地位や名誉は不要だ。
欲しいのは金。そして金は限界一杯の枠をすでに獲得している。
あとはなにが欲しいかといえば。
考えてみても欲しいのは、そうだな。女くらいだが……。
女か、待てよ。女をもらう?
いや、さすがに国に対して女を寄こせなんて言うのは無粋だろう。
それにその気のない女を抱くのも気が乗らない。俺にそういう趣味は無いからな。
ああ、万が一変わり者の女がいたとしても、それが高貴な身分だった場合には、結局は厄介事に繋がってしまう。ダメだな。
だったら権利、そうだ、権利はどうだ。
俺の場合、今後に想定できるのは女がらみのトラブルだろう。適当に引っ掛けることや酔った勢いでという場合は十分に考えられる。
女はかなり怖いところもあるからな。勇者の立場もあるし、揉めるとややこしいことに発展する可能性はある。その際に例え俺が不利になったとしてもお見逃しを得るってのはどうだ。卑怯でも何でも面倒から逃れられるなら、それが一番だ。……さすがにカッコ悪いか。
待てよ。権利なら別のものがあるかもしれない。
……そうだ!
もしいればだが、貴族が使うような高級娼婦はどうだ。そっちの紹介は頼めないだろうか。
高級娼婦を呼ぶ、あるいは高級娼館を使う権利だ!
きちんと利用料金は払うから、俺でも使えるように便宜を図ってもらいたい。おお、それがいいな。グッドアイデアだ。
「決まったぞ! 女だ。女の紹介を頼む」
「……女、そういうことですか。褒賞としての婚姻は事例があります。大門殿の実績であれば、希望者は多いでしょうね。高位貴族で未婚の女性、条件次第では姫殿下との話すら持ち上がるかもしれませんよ」
「いや、それは要らん」
「え?」
「俺が言っているのは、娼婦のことだ。お偉いさんどもが呼びつける高級娼婦のことだよ。そういうのがいないってことはないだろ? 俺にも使わせろ」
「……は、はぁ。実態を知りませんので、一応聞いてみます……」
がっくりと項垂れる心の友の心境がよく分からん。
もしかしたらマクスウェルの奴も高級娼婦と楽しみたいのかもしれないな。
仕方ない、何度かその娼館を使ってみて良さそうなら、こいつにも奢ってやるか。世話になっていることだしな。
「頼んだぞ、俺はVIP待遇になるようにな」
「もし無かった場合にはどうしますか?」
「無い、なんてことがあり得るのか?」
「貴族は通常、複数の夫人を得るものです。人によってはさらに複数の妾を作ることもありますので、あまり娼婦を呼ぶとか娼館に通うというのは聞いた事がないですね」
なるほどな。政略結婚が横行していそうな貴族なら、娼婦に対する需要があるかと思ったが、妾を自由に作れるなら話は変わる。
だがしかし、プロと素人ではなにもかもが違う。プロの技、男の要望に応えんとする意識の高さは、素人の比ではない。
需要あるところに供給ありだ。マクスウェルは知らないようだが、俺の予想ではあると思う。
あれ、そういえばこいつも貴族の端くれのはずだが、女関係のことは聞いた事がなかったな。また今度聞いてみるか。
「無ければ仕方ないが、まあ調べてみてくれ」
「分かりました。ですが、念のため代替案も考えておいてください。それとそれだけではまだ不足かと思いますので、できれば追加の褒賞も考えておかれたほうがいいと思います」
「褒美を受け取る側も、なかなか難しいものだな。思い付きそうにないが、その時にはなにか妥協してみるさ」
ああ、忘れるところだった。
「俺のはいいとして、キョウカとシノブも活躍したからな。そっちの褒美も頼むぜ?」
「そちらも近いうちに。おそらく女性の担当者がうかがうことになると思います」
「おう、そうしてやってくれ」
なにを欲しがるか分からんし、女同士のほうが話もしやすいだろう。
その際には席を外してやるのが紳士ってやつだろうな。無論、俺は紳士ではないが。




