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悪党面の鬼勇者は、世界を救う対価に金と女を要求します。  作者: 内藤ゲオルグ


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煩わしい褒賞

 最近はかなり暇だ。

 キョウカとシノブの二人は魔法のレベルアップにハマっているらしく、朝から晩まで特訓に明け暮れている。


 もちろん俺は余計な口は出さない。やりたいことをやりたいだけやればいい。

 二人が忙しくしている分、俺は誰にも気を使うことが無い自由時間ができるわけだ。


 ヴァイオレットに逢いに行くのは最優先事項だったが、それ以外にもアンドリューやその手下どもと飯を食ったり遊んだりもした。

 隠れ家に気ままにやってくる女とも遊んだりで、なかなかに充実した日々だ。


 そうそう、クリーム色をしたウサギだが、意外なことに俺にもよく懐いた。寝る時には部屋にやってくることもざらにあるほど。

 癒しの要素まで加わり、あらゆる意味で飢えることのない、こんなに楽しい日常もなかなかない。


 日課と化した早朝訓練こそサボることは無かったが、遊び惚ける楽しい日々を送っていると日が経つのも早い。

 ヘビ公を倒してからどれくらい経ったのか、ある日の昼下がりに、良く見知った男が訪ねてきた。


「おう、とりあえず上がってけよ」


 未だ荒れたままの屋敷の玄関を通り、殺風景なリビングに移動する。


「お久しぶりですね、大門殿」

「マクスウェル、ずいぶんと久しぶりじゃねえか。忙しかったみたいだな?」


 こいつはマメな奴だ。用が無くても時々はご機嫌伺いにくるような奴だから、きっと仕事が忙しかったのだろう。


「それはそうです。第一種指定災害の後始末もありましたし、警戒中に討伐した魔物と被害の処理もありましたので……」


 なにやら想像以上に忙しかったらしい。疲れが見えるな。

 遊び惚けていた俺には王国の連中がどれだけ働いていたのか想像もできない。


「まあなんだ。ここにきた時くらいはゆっくりしていけ」

「ははっ、ありがとうございます。それより、今日は褒賞の話を持ってきました」

「意外と早かったな。今回は期待してるぜ?」

「はい、さっそくですがこちらが目録の下書きです。まずは見てもらえますか」


 資料を受け取ると、どんなもんかと目を通す。



■目録


 この度、バルディア王国は第一種指定災害討伐の偉業を称え、また同魔物の譲渡に感謝の意を示し、刑死者の勇者様に以下をお贈りします。


・子爵位および領地

・近衛騎士団顧問

・王室相談役

・大金貨一千枚

・偉業を称える銅像を王都に建立


 以上、一式を贈呈いたします。

 ※その他応相談



 ……ほう、そうきたか。


「これがお偉いさんどもで考えた結果か。ほぼ要らんな」

「ほぼ、ですか」

「下書きだから、あえての部分があるのかもしれんがな。これはない」

「爵位と領地、そして地位、抜群の名誉と思いますが……」

「いるわけねえだろ、そんなもん。めんどくせえ。ややこしくて面倒なのは勘弁ってのは、お前なら分かってんだろ?」

「そう言われるとは思いましたが、一度はお見せしろと厳命されていましたので。すみません」


 そもそも俺に人様の上に立つ役割などできるわけがない。完全に向いていない。

 せいぜいできる事と言えば、部下に対して「おう、お前ら適当にやっとけ」このくらいしかないだろう。


 リストに書いてあるなかで欲しいのは大金貨だけだ。

 大金貨は、一枚当たりおよそ百万円程度の価値がある。それが千枚となると、十億くらいの計算だ。

 個人としては大きな金額だが、バルディア王国ほどの大国なら特に大きな出費ではないだろう。


 第一種指定災害討伐の代価、そして丸ごと譲り渡した代価として、とても妥当な額とは思えん。

 金貨をケチりたいが故の地位のようにも思えてしまう。地位なんてもらったところで、どうせ名ばかりで権限など付随しないのだろうしな。


 ましてや爵位や領地など問題外だ。俺がまともに領地運営などできるはずがないし、なによりその爵位とやらが邪魔臭い。


「欲しいのは金貨だけだな。千枚では少ないが」


 正直なところをはっきりと伝える。そうでもしないと伝わらないことのほうが多い。


「少ないことについては同感です。大門殿、腹を割って話してもいいでしょうか?」

「おう、俺とお前の仲だ。どっかで余計な事を言うつもりはねぇ。遠慮はいらねぇぞ」


 他言無用とする口約束だ。もう互いにその程度の信頼はある。


「では。正直なところ、金額の算定ができないのです。第一種指定災害討伐の褒賞にどれ程の金額が見合うのか、議論を重ねましたが非常に難しいです。その素材の貴重さ、有用さは言うに及びませんし、死骸は素材以外にも研究資料としても有用です。あれ程の巨大さですし、もはや値段が付けられないという結論に至りました。無理矢理に算出できないことはないと思うのですが、そうするとまた別の問題がありまして……」


 例えば大量に金貨を積み上げて、数百億相当の現金を準備すること自体は、理屈としては可能ということだ。

 だが、度を越した大量の金貨を個人に与える習慣というのはないらしい。


 常識的に褒賞というのは、地位や領地にプラスして、金貨を少々というのが妥当なのだそうだ。大金貨を一千枚というのは、現金で出せる限界という。


 さらに聞くと、金貨というのはもちろん現物だ。紛失する可能性がないとは言えないし、騙し取られることだってあるかもしれない。

 それだけの金貨を国外に持ち出されるリスクも考えなければならないらしい。

 俺が考える以上に、大金を与えるというのは慎重を期さねばならないことだそうだ。


「それで地位とか名誉だとかを持ち出したわけか」

「はい。それに我が国の予算は巨額ですが、昨今の魔物対策にはどこの部署も経費に逼迫している事情もあります。金貨としてお渡しできるのは、今回の提示が最大とお考えください」


 この男は嘘や誤魔化しは言わないはずだ。少なくとも俺相手には。こいつが言うことなら信用してもいいだろう。


「王国の事情は分かったが、要らんものを提示されてもな」

「実際のところ、大門殿に面倒をお掛けするものではないですよ。爵位はともかく、領地はいくつかの候補からお望みの場所が与えられます。それに領地の運営には優秀な代官を派遣しますので、領主となる大門殿は何もせずに収入だけを得るといっても過言ではないかと」


 あまりにも上手い話だ。マクスウェルの言う事に嘘はないと思うが、どこかに必ず落とし穴があるはずだ。そしてそれを巧みに利用しようする輩は必ず現れる。世の中ってのはそういうものだ。

 悪党というのは、いつでもどこにでもいて、抜け目なくチャンスをうかがっているものだ。俺はその餌食になる気はない。

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