第十五話 建てるぜマイホーム!
今日のレッスンで、魔法を使う為のコツは掴んだ、後は分からない事や困った時に、訪ねるくらいで良いのではないだろうか。イヴァンジェリンの他にも先生が居るらしいが、面倒臭いってのが正直な感想なので、このままスルーしたい。取り敢えず、暫くはマイホーム造りを優先しようと考えたのは、今日の魔法で風呂の目処が立ったし温泉が湧くのも判ったので、敷地を拡げるつもりだからだった。
(そもそも、魔法が有ったら城だって建つんじゃねぇ? まぁ、それは冗談にしても、レッスンについては里長に相談してみようかなぁ)
翌朝に里長を訪ねる事にして、夕飯の仕度を始める。昨日、鍛冶屋で手に入れた道具のお披露目である。食材は、鮪……マグロステーキだ! ――って言っても、ただ焼くだけである。ついでに棄てる筈の骨に付いてる身を、刮ぎ落としておく。葱が有ったら、ネギトロに出来るのだが、これはこれで旨いので今はアイテムBOXに保存して置く。鍋に、井戸水を汲んで来て沸かし、軽く炙った骨で出汁を取ってみた。味噌をいれてから、沸騰しない様に火から下ろしたのは味噌の風味を飛ばさない為である。
米が欲しいなぁ。いや、在るけど簡単には使えない! 今日は、分厚いマグロステーキと、具の無い味噌汁だが、料理スキルがちゃんと仕事をした様で、素人としては十分に旨かった。何だかんだで、テント生活にも慣れて来た気がする。最近の日課に成った、天体観測をしながら沁々(しみじみ)と思うリュージであった。
月の無い夜空を見て考える。ここが異世界なのは間違い無さそうだが、知ってる星座や星が在るのは何故なのか。そして、イヴァンジェリンから聞いた話に出て来る星。もしかしてあれは、月の事ではなかろうか? 白や赤の星は知らないが、黄色に輝く星で連想するのは月しか無い。
まだ確証は無いのだが、ここが地球だとしたら、異世界と言うよりは未来世界か別の進化と歴史を辿った平行世界なのではないか。少なくとも月が無い時点で過去は無い、可能性としては未来説も捨てがたい、月が墜ちて来て文明が一度滅んだとしたら、文明レベルが低くてもおかしく無いのか? しかし、遺跡の類いが見当たらない。
(この近辺しか知らないから、これは保留だな)
平行世界だとしたら、どの段階で分岐したのだろうか? 月が墜ちた世界と墜ちなかった世界か?地球が、誕生してからの年数が同じなら、タイムパラドックスとか、気にする必要が無い程に離れた世界なんだろう。月が墜ちたとしたら、人類誕生以前だと思うからだ。そんな事を、眠くなるまで考えながら、長い夜を過ごすのだ。答えなんか出ないが、時間を潰すには丁度良いテーマだった。
――そうして、今日の夜も更けてゆく。
翌朝、目を覚ましたリュージは、テントを片付けて里長の屋敷を訪ねていた。
「お早う御座います。朝早くすみません」
「おはようリュージ、なに構わんよ! それより魔法の方はどうじゃ?」
「えぇ、イヴ先生のお陰でコツが掴めました。後は、疑問や質問が有る時に訪ねようと思います」
「それじゃと、他の者から不満が出てしまうじゃろうな、面倒かもしれんが、予定通りにレッスンを受けてくれんかな? 一回ずつでも構わんから」
朝一番の訪問に、快く出迎えてくれた里長は、世間話とばかりに、レッスンの調子を確認して来る。これ以上のレッスンが、不要である事を暗に示すが、どうやら不味いらしい。
「何故か聞いても? そもそも、イヴ先生だけでも十分ですし、そんなに人が集まった理由を伺いたいんですが?」
「上手く行けば、里の為になる事なんじゃがな、知らん方が良いかと思うんじゃよ。悪い様にはせんと約束しよう、聞かんでくれんか?」
「えぇ~、そう言われると余計に気になるんですけど?」
「すまんなぁ、どうしても聞きたいなら、このままレッスンを受けて、誰かに教えて貰ってくれ、わしからは言えんのじゃが、仲良くなれば教えてくれる者が、居るやもしれんでな!」
里長から、これ以上を聞き出すのは無理そうだ。仕方無いのでマイホームの目処が立ったらって事にして貰うのが良いだろう。
「分かりました。それで、聞いて置きたい事が有るんですが」
「なんじゃ? 何でも聞いてくれて構わんぞ! 答えられる事なら答えよう」
俺は、里長に色々と質問をした。時間の概念だとか、この里で生活する上で、仕事はどうしたら良いかとか、一番近い街は何処に在るか等だ。
時間は、六十秒で一分、六十分で一時間と、同じかと思ったら、一日は二十七時間らしい。
曜日は、光、火、水、風、土、無、闇の七日で一週間とし、一つの季節は十三週となるそうだ。
春、夏、秋、冬が九十ー日毎に移り変わり、一年の始まりは、新生の日と呼ばれる。つまり、三百六十五日で一年となるとの事。月が無いから、一ヶ月という概念が生まれなかったんだろう。
仕事は、落ち着いた頃に里長が、紹介してくれる事になったが、自分で見つけたら、それでも良いらしい。何か役に立てる事はあるだろうか?
一番近い街は、ラストックという街で、西に徒歩で四十日くらいの場所に在るらしい。落ち着いたら行ってみたいものだ。
一通り聞いたので、今日の所は帰る事にした。朝一番とはいえ、あんまり長居しても、迷惑だろう。
里長の屋敷を出て、このままマイホーム予定地に向かう事にする。放ったらかしになっている切り株を、いつまでもこのままに出来ないからだ。どうするべきか悩む。先日とは違い、魔法でどうにでもなるのだが、例えば火の魔法で焼くか? 土の魔法で掘るか? ……そこまで考えた時に、アイデアが閃くと同時に己の灰色の脳細胞に絶望する。
(俺って奴は馬鹿なのか!)
恐る恐る切り株に近付き、試しにアイテムBOXに収納してみる。
(おぉぅ、やっぱりかぁ~!)
こんなに簡単な事に、何で気付かなかったのだろうか! アイテムBOXは生物を入れる事は出来無いが、枯れた切り株なら入るではないか。枯れて無ければ同じかもしれないが、気付いても良さそうではあったのだから。
気を取り直して、切り株問題が解決したので、予定していた敷地を拡げる事にした。ここは里の外れも外れ、徒歩三十分位の場所だ。所詮は余所者なので、近付き過ぎない方が良いと思っての距離である。距離感が分からない内は離れていた方が安全だからだ。
この前と同じ様に、切り倒して行く。切り株がアイテムBOXに収納出来たので、切り倒す前に試してみたが、やっぱり駄目だった。生きているから駄目なのか、アイテムだって言い張っても無駄だろう。
作業に没頭する事、二十五分。気付くと敷地が一ヘクタール位になってしまった。リュージが通った小学校の校庭が大体これくらいだったと思う。
切り株も収納し、この後は、何も無くなった敷地を均す作業に入るつもりだが、どうするか。
均すのは、取り敢えず建物部分だけで良いと思うが、どれくらいにするべきだろうか。折角のマイホームだから、大きな家が良いのだろうか。地盤は強い方が良いので、上から押し潰す感じで平らに均す。多分、百坪くらいにはなるだろう。
魔法が使えない時は、木造にするつもりだったが、近くに岩場が在るので、石造りにしてしまう計画である。岩場に赴き辺りを調べた結果、マグマが冷えて固まった火成岩の様だ。恐らく、この石は日本でいうと御影石って呼ばれてる奴だろう。建築物や墓石なんかでよく見る硬い石で花崗岩とも呼ばれる。問題は、これをどうやって切り出すかなのだが、どうするか……魔法の熟練が足りないから、自由自在に変形させるなんて、まだ出来ない。
物理的に切るのは、道具が無いと難しい。魔法を使うとするならば――漫画だと風の刃だとか、水の刃なのだろうが、風からやってみる事にしたらしい。風を薄く、薄く、刃物の様にイメージして打ち出す。
(辺りの砂が舞うだけって、なんでやねん! 勢いが足らんのか? 今度は、丸鋸をイメージして打ち出す。同じやないかい! 風は駄目だな、切るには向いてない。やっぱり水だよ! 超高水圧のカッターで切断するのだ!)
確かに超高風圧とか聞いた事無いし、大気の在る場所に真空は出来ないとか何とか聞いた様な……鎌鼬の原因は真空では無くて、風で飛んで来た何かで切れただけか、妖怪の仕業だろうとリュージは考えを改める。
何にしても、超高水圧のカッターは成功だ。しかし、物凄く時間が掛かるのはどうしたものか、これでは日が暮れるどころか、何日経っても終わらないのではなかろうか。
(うん、俺が間違ってたよ! 調子に乗って、難しい事をしようとしても、駄目なのさ。地道に努力して、出来る事を増やしてからじゃないとな)
今回は、木造の一軒家を建てる事で決定! 木材を乾燥させてから、材木に加工しないとならない。木材の乾燥は、燃やさない様に火の魔法を調節して、炙ってみた。しかし、水分の偏りからか、炙ったところから木材が反ってゆく。使えない事も無いが、出来れば真っ直ぐな物を使いたい。
そこで、試しに水の魔法を使って水分を抜いてみる。要は、水分を無くせば良いのだから、同じ事ではなかろうか。全体的に水分を抜いたので、変に反ったりはしなかった。この調子で、纏めて水分を抜いてしまおう。しかし、水を抜くと随分と縮むものである……重さも半分くらいだろうか。
(それにしても大きな木だな、今更だけど。樹齢って年輪で分かるんだっけ? ちょっと数えてみようかな! ……ハ、ハハ、数えるの止め! 目が痛くなるし、二百迄は数えたさ。でも、無理。も~、無理! そうだな、大体一千年位じゃね~の? 間隔的に?)
日本だったら保護されてそうな木をバンバン伐採してしまったが、大事に使わないとならないだろう。
先ずは、樹皮を剥がす事にする。カラッカラだから剥き易そうだったが、数があるからウォータージェットで吹き飛ばないかなと考える。木材を固定して樹皮だけを剥く様にイメージ!
(ジャガイモみたいに回転させて。よしっ!)
イメージは、出来たしやってみる。失敗したら、次に活かせば良いさ! 結果からいうと成功だった。木の外側は比較的に脆いらしく、最初は加減を間違えて、一緒に剥いてしまったが、結果良ければ全て良しと続けるのだった。
(このまま、バンバン行っちゃうよ~。樹皮を剥いた木を製材して、柱と梁と、あっ!)
まだ、決めてなかったけれど、ラーメン構造か壁式構造か、どちらにするべきだろうか。日本人だから在来軸組工法か? 構造計算とか面倒だし忘れてしまったから出来ないけれど、贅沢な話――ぶっとい天然無垢材が沢山あるのだから耐力的には何とかなる。
(ここは異世界。建築基準法とか無いし! 無いよね? 里長が建てて良いって言ったし? 何か有ったら里長に丸投げでいっか!)
柱と棟木と土台は三十センチメートル角で、間柱と大引なんかは十センチメートル角で良いや。梁は三十センチメートル×四十五センチメートルにしよう! 垂木は十センチメートル×十五センチメートルくらいかな? 筋違いとか火打ち梁もあるよな。壁は五センチメートル厚の一枚板を贅沢に使う。
夏のくそ暑い中で働いた職場実習での経験を思い出す。屋根とかうろ覚えだったが、その辺のデータはパソコンに入ってる。そもそも平屋を建てるのに、こんな馬鹿デカいサイズの木材は必要無いのだ。
(こんなん何階建ての家だよ! ってレベルの寸法で、贅沢だよなぁ)
リュージは、鼻歌まじりで木材をカットして行く。石は大変だったのだが、木はサクサク切れて楽しかった。慣れて来ると纏めて切れるし、木屑も殆ど出ない。断面もキレイで木目が鮮やかだ。作業中は木の香りを嗅いでいると精神が落ち着き心が洗われる様だった。
加工の終わった材木から組んで行くのだが、地面に直接は湿気や防虫の意味でも不味い。粘土っぽい土を地面から取り出して、基礎を造る事にする。岩は切って来れなかったが地中の粘土を集める位なら出来そうだ。形はこんなもんかな? このままだと流石に弱いから、焼くか? 圧力も掛けとこうか。温度は、分からないけど上がるだけ? などと試行錯誤をしながら作ってゆく。
『錬成Lv1を獲得したニャン?』
(ん? スキルを得た様だが、何でだ?)
焼き上がった粘土だった物は、岩石になっていた。レンガになれば程度の考えだったのに。恐らく、スキルはこれのせいだろう。いや、スキルのせいでこれになったのか? いずれにしても便利そうだから良しとする。焼き上がった岩石は、かなりの熱を蓄えてるが、水を掛けて急冷したら割れるだろうか? 流石に水蒸気爆発までは無いと思う。水は危なそうなので、さっき使えなかった風で冷やす事にした。リュージの中で風の評価が駄々下がりだが、今はどうしようも無い。名誉挽回を期待するだけだ。
何とか触れる温度まで冷えたので、土台を設置するが、アンカーなんて物は無いから、基礎に凹凸を造ってある。土台にも、同じ形の加工をしてあるので、嵌め込むだけで完了だ。つまり、原理としてはブロックを組んで、色々作れる玩具みたいな感じだが、抜けない様にはしてあるので問題は無い筈だ。
勿論、釘やネジなんかも足りないので、この際使うのはや~めたって事で、ついでに仕口を加工した。昔の寺社は継手や仕口を巧く利用し釘を使って無い物もあるからだ。
足場が無いと梁が掛けられないので、脚立を二つ作って板を渡した物を設置する。工事現場でこれをやると怒られるし、事故なんて起こそうものなら現場ストップで大変な事になるが、異世界で自宅なのでノープロブレムだ。自己責任である。
土台に柱を挿して行き、梁を掛ける。筋違いと火打ち梁も入れて……此処までやったら、上棟まで行くべきだろう。
梁に小屋束を立て、棟木と母屋を掛ける。ついでに、棟木から母屋と梁に掛かる様に、四十五センチメートル間隔で垂木を掛けて、野地板を貼って行く。流石に屋根とか壁はネジを使った。釘無しの方法が想像出来なかったからである。乗せてるだけでは、飛んで行きそうで怖かったのだろう。
(部分的に外壁の板も貼っちゃうかぁ~! 窓はどうしよっかな~? 取り敢えず、保留。今は開けとこう)
土台に大引を掛ける。九十センチメートル間隔で、束を入れるのも忘れずに、欠陥住宅とか怖いからね! 土台と大引に四十五センチメートル間隔で根太を掛けて、床板を貼る。
(集中してたら西日が射して来た。今日は、この辺で勘弁してやるか。はっはっは~ってな! テントを張って、飯食って寝るかな~。風呂は明日にでも造って入れば良いや)
ステータスはこれだ!
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属
種族 異世界人
レベル 5
生命力 1049/1049
魔力 ∞
力 771
体力 768
知力 2074
素早さ 1211
器用さ 294 (10upニャン↑)
運 64
魔素ポイント 99998498
《スキル》
[電脳Lv2] [電化Lv2] [方向感覚Lv2]
[鵜の目Lv3][鷹の目Lv2][気配察知Lv2]
[剣Lv3] [料理Lv1] [魔力感知Lv1]
[伐採Lv4] [交渉術Lv1][魔法の心得Lv1]
蹴撃Lv1 槍Lv3 盾Lv1
登山Lv1 投擲Lv1 泳法Lv3
潜水Lv3 錬成Lv1 new
《称号》
スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者 ムッツリ助平




