第十一話 報酬は個人レッスン!
自分の仕事が終わり、暇を持て余していた頃。
(眠いなぁ、寝ちゃおうかなぁ~)
あの人が現れたのは、そんな風に考えてる時だった、音も無く甲板に降り立ち騒ぎ始めたその人はバルザックを見付けると、食って掛かる様に詰め寄る。
「バルザック、ドリスは? あの娘達は何処なの! 無事なんでしょうね?」
「ダーナか……あぁ、全員無事だとも!」
「ママ! ここよ! 私はここに居るわ!」
「あぁ、ドリス! 「ママ!」無事で良かった」
無事に再会出来た事を喜び、抱擁を交わす親子、とても美しい光景だが……あの女性は何処から現れたのだろうか。
(見間違いじゃ無ければ、空を翔んでたよね? 今、翔んでたよ! ひゅるる~って、風の魔法かな? うわ~、夢が拡がるなぁ)
「ぉぞう……小僧……おいっ!」
「何だ、バルザックか、何か用? ビックリするじゃんか! 大きな声出さないでよ」
「呼んでも聞こえないみたいなんでな、それより、紹介しよう……オリアスの妻でドリスの母のダーナという」
「貴方が、うちの旦那を半殺しにした子ね? 娘達を助けてくれて、ありがとう!」
「あ~っいえ、仕事ですから! 出来たらご主人の分とで、チャラにして下さい」
正直な話、変に畏まられるよりはチャラにしてしまった方が精神的には楽だろう。
(それにしても、あの金髪髭面野郎。こんな美人な奥さんを、何処で引っ掛けてきたんだ? こういうのがプラチナブロンドって言うのかな? 何つ~か、ロシアのスーパーモデルって感じ?)
「チャラで良いの? 魔法を覚えたいって聞いたけど?」
そう言って、何とも妖艶な笑みを浮かべて問い返して来るダーナ。匂い立つ様な人妻の色気をヤバいくらいに醸し出していた。
「それは、里長からの報酬ですから」
「そう、つま~んな~い!」
「(つま~んな~いって、母親としての顔は、何処に行っちゃったんですか!)……そっ、それより、殲滅作戦はどうなんですか?」
「そっちは、大丈夫よ。えっとね~」
なんでも、帝国兵の中にも魔法使い……所謂、魔法兵が居た様だが、実力が違い過ぎるので、何も心配は要らないらしい。大変だったのは、時間を稼ぐ為の手加減だけで、殲滅は直ぐに終わるそうだ、そう言ってる間にも戦闘が終わったらしい。静かになった、野営地の方を見ると赤く輝く小山が出来ていた。それは、炎に照らされてキラキラと光っている。
「あれね~、大きな氷山なのよ~! 海が近いってのに……やっぱり、イヴァンジェリンさんは凄いわね~」
イヴァンジェリンって人が、隠れ里一の使い手だそうだ。あの氷山は、数百本もの氷の柱を次から次へと作り出す事で、結果的に一つの氷山の姿になるらしい。氷系統の魔法で、指定した範囲の水分を利用して氷柱を作り出すらしいが、近くに海が在ると効率が下がり、途端に難しくなるそうだ。恐らく氷点降下が原因だろう、この世界は魔法で発展して来たので、科学としての知識は殆ど無い様だ。
魔法で氷を作るのが常識なのだから、「どうして氷が出来るのか」という事象の探究よりも、「どうやって氷を作るのか」という魔力や魔法の研究が発展するのが、自然な流れだったんだろう。しかし、指定した範囲の水分って、生物にも有効って事なのだろうか。だとしたら、人なんて殆どが水分なのだ、あの氷山の下はミイラだらけって事になるのだろうか。そう考えると赤く照らされる氷山は、まるで墓標の様であった。
(怖っ! 近くに居なくて良かった。今頃、あそこは凄ぇ~寒いんだろうし!)
そんな事を考えてる間にも、小舟でやって来た自警団により、船内の捜索や装備品の回収等が行われてゆく。航海日誌や命令書等の書類は、全て回収して……後日、時間を掛けて調査するらしい。この船は、証拠隠滅の為に沈めるそうだ。帝国の船が近くを通った時に、発見される恐れがあるので、例え有用でも目立つ上に運べない物は、破壊するのが決まりなんだとか。
(まてよ? これって、もしかして)
「お~い、バルザック! この船って、もう要らないんだよなぁ?」
「あぁ、説明したと思うが、これから魔法で船底を破壊して沈める」
「なら、俺にやらせてくれないか?」
「それは、構わんが……何を企んでいる?」
「(お前が俺の何を知っているというのか、全く失礼な! 企むとは何だね企むとは! 人聞きが悪い)」
誤魔化す様に笑顔で送り出したが、内心ではヒヤヒヤである。ばつが悪いのか小声で文句をつけながら退避の完了を待った。
自警団を始めとした隠れ里の面々が、小舟に乗り込み離れてゆく。それを見届けたリュージは、この船を丸ごとアイテムBOXに収納したのだった。
船が収納され、足場が無くなると暗い海に身を躍らせ着水するが、混乱せずに海面に出れたのは、方向感覚スキルのおかげだろうか。ゆっくりと泳ぎながら小舟に近寄って行くと、案の定バルザックが声を掛けてくるのだが。
「何をした?」
「別に、アイテ――」
「アイテムBOXね?」
簡単に説明しようと話始めると、ダーナに先に言われてしまった。
(あぁ、やっぱり知ってるのね……良かった説明の手間が省ける)
「あんな大きな物が入るって、普通じゃないけどどうやってるの? 私にも出来るのかしら?」
「えっ! ……なっ、何となく?」
それからが大変だった。説明しなくて楽だなんて、とんでもなかった。何がダーナの琴線に触れたのかは分からない。不用意な発言で怒らせたのかもしれないし、ただ知識欲を刺激した結果なのかもしれない。あまりにも追及され過ぎて途中から覚えて無かった。
(だって、分からない物は分からないんだから仕方無いじゃないか!)
何にしても、今日はもう遅いからと、ダーナを宥めたリュージは、返り血を落として寝る事にする。里の井戸で、一生懸命に返り血を洗い落としている間に、辺りはとっくに寝静まり、誰も周りには居なかった。
この固まった血の汚れが、もう頑固で……買い置きの石鹸や詰め替え用のシャンプー、リンスやコンディショナーにトリートメント等が入った籠が、棚ごと有って本当に良かったと本気で感謝するリュージであった。そんなこんなで、いざ何処で寝ようかと思った時には、周りに誰も居なかったのである。確かに皆も疲れてるのだろうが、声くらい掛けても罸は当たらないのではないだろうか。テントを張り、寝る前にステータスを眺める。
(う~ん、三つもレベルが上がってる。やっぱり、殺しの経験値は大きいのだろうか? スキルも上がってるけど、こちらは多分……熟練度の類いだから、練習とか試行錯誤すると上がるんだろう。剣とか槍の振り方を試したし)
ステータスを確認してレベルアップは大事なのだが、リュージが特に気にしたのは称号であった。人聞きが悪い事この上無い称号が二つ。好きで殺した訳でもあ無いのに、殺戮者とか無慈悲なる者とか、人でなしっぽい称号を獲得していたのだ。しかも、獲得してたのに例のアナウンスが無かった事が謎だった。ステータスに影響しないからだろうか。
(何々? あぁ~成る程)
リュージは、称号の説明を読んでいて、変に納得してしまった。一定数の敵を相手にして無傷で殺害すると獲得するのが殺戮者であり、命乞いした者を容赦無く殺すと無慈悲なる者を獲得するらしい。どちらも、精神の安定作用が有るらしく、殺しによる罪悪感を抑制する効果を持っていた。
(これって異常者なんじゃね?)
野犬を殺した時より動揺が少なかったので違和感は感じていた。戦闘中の興奮状態だったらいざ知らず、終わった後も落ち着いてたので、リュージ自身もおかしいと思っていたのだ。
(三下は、命乞いのフリじゃ無かったのか? それとも、例えフリでも、命乞いすれば条件が整うのか?)
こうして、ステータスを確認してたのにも拘わらず、気が付いたら寝落ちししているのは、いつもの事であろうか。
小鳥の囀ずりで目が覚めると既に昼だった。朝だと思ってテントから出ると、自警団の人が立って居り、里長から呼んで来る様に頼まれたらしかった。起こしても良いのか、迷っていたらしい……ご苦労様です。
自警団の人に案内されて、里長の屋敷に二度目の訪問をしたリュージは、その人数の多さに圧倒されていた。
(何で、こんなに人が居るの? しかも、女ばっかり)
「待っとったよ、え~……「リュージです」そうそう、リュージじゃったな! 昨夜の活躍は、バルザックからの報告で聞いておる。十分な働きをしてくれたとな!」
「いえ、報酬の為ですから」
「そうじゃな。では早速、報酬の件なんじゃがな」
そこで、村長が言い淀んだ……まさか、約束を反故にする気か? と、思ったら逆だった。この話を何処からか聞いた魔法使い達が、立候補して来たらしい。誰にするかで揉めて、現在に至る。この話を聞いた時、真っ先に浮かんだ容疑者は、言わずと知れたダーナである。ちゃっかりこの場にも居るのは構わないのだが、いったいどんな話をしたのか分からない点が不安だった。
リュージが半目で睨んで見ると、可愛く舌を出す。おのれ人妻め! 怒れないじゃあないか。なんて事を考えている内に結局、誰か特定の人に弟子入りするのでは無く、それぞれに得意分野があるので、基本的には交代制にして、分からない事が有ったら聞きに行くという事で纏まった。
何時間掛かったのかも分からず、疲れていると元凶でもある人間が冷やかして来た。
「あらあら、モテモテね~」
どれもこれも、この人のせいなのに、こんな事を宣う始末だ! 全く手に負えん。
何にしろ、これで魔法の目処は立った。魔法の個人レッスンは明日からだそうだが、こちらとしては全く問題は無いので、お願いする事にした。
因みに、戦利品の分配は今回の作戦に参加した人数で、等分にする事になった。といっても、価値が分からないので適当である。リュージは、何だか豪華な金貨を十枚、航海日誌と何処とも知れない地図を数枚貰った。
航海日誌を村長が調べてみたが、嵐に遭って流されただけで、隠れ里が見つかったのは偶然だった事が判明したので用済みらしい。
隠れ里から出るつもりの無い人達にとって、航海日誌やら地図やらは価値の無い物でしかないので、リュージが欲しいと言ってみたらアッサリくれたのだ。これは、大収穫ではなかろうか。
こうして、明日からの個人レッスンの為に準備をする為に、いろいろと考えを巡らして午後を過ごすのだった。
ステータスはこんな感じです。
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属
種族 異世界人
レベル 5 (3upニャン↑)
生命力 956/1049
魔力 ∞
力 771 (18upニャン↑)
体力 768 (3upニャン↑)
知力 2059 (13upニャン↑)
素早さ 1211 (13upニャン↑)
器用さ 279 (8upニャン↑)
運 59 (13upニャン↑)
魔素ポイント 99998498
《スキル》
[電脳Lv2] [電化Lv2] [方向感覚Lv2]
[鵜の目Lv3][鷹の目Lv2][気配察知Lv2]
[剣Lv3] [槍Lv3] [交渉術Lv1]
[投擲Lv1] [潜水Lv3] [泳法Lv3]
蹴撃Lv1 料理Lv1 盾Lv1
登山Lv1 伐採Lv3
《称号》
スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者




