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俺の本物を殺しに行く  作者: いらないひと
第二章:聖女復活編
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8:『彼ららしい考え方』

 ユウとサキが消えた次の日。

 異世界勇者のエイジとヒデオは、競うようにして森の迷宮を突き進んでいた。


 二人はサキのように普通の魔法が使えない。

 そのため、細い木には剣を叩きつけ、太い木には勇者専用魔法ブレイブイグニッションを撃ち込んでいた。


 ……なるほど。

 確かにこの様子を見慣れていれば、魔法を使えるサキが賢い子に見える気がしなくもない。


「まだまだ!」


「こっちだって!」

 

 エイジとヒデオがどんどん進んでいく後ろを、それぞれのパーティが続いていく。


 その進行速度は尋常ではない。

 全員が勇者だから良いものを、普通の人間では置いていかれるだけだろう。


「そ、そろそろ休もうぜエイジ?」


 エイジパーティーで一番の常識人を自認するハインは溜息をついた。

 

 勇者の中でも異世界勇者の力は抜きん出ている。

 彼らにとっても二人についていくのは楽な事ではない。


「なんだ? もうバテたのか?」


 エイジは仲間を振り返った。

 既に何百発と魔法を放っているが、威力を抑えている影響もあるのか、それほど疲れた様子はない。


 そのやり取りを見たもう一人の異世界勇者も足を止めた。


「ふっ。まあ普通の勇者ならそうだろうな」


「流石はヒデオ様! 強者の余裕ですね!」


 鼻を鳴らしたヒデオを、治癒師カティがすかさず持ち上げた。

 彼のパーティにとってはいつもの光景である。


 カティにとってはこれが機嫌取りではなく素の行動だというのだから驚きだ。

 彼女の目は完全にハート型と化している。


「でも、確かにそろそろ休憩を挟んだ方がいいかもしれないわね。目的の地点に近づいてきたし」


 エイジパーティの治癒師アンリは冷静に地図を広げた。

 どうやら彼女の方は自分のところの異世界勇者を持ち上げない主義らしい。


 ……まあそれが普通なのだろうが。


 今回の作戦の指揮官であるエルネストによれば、このまま直進すると『聖女』ルシエラが封印されたとされる場所に到着する。

 彼らはもうそろそろ、その付近に到達するはずだった。


「よし。じゃあ到着したら休もう。……ハインがそろそろ限界みたいだからな」


「俺だけかよ?!」


 エイジは鼻で笑うと、再び前進を開始した。


「よし、こっちもだ! 俺達が先に辿り着くぞ!」


「はい! ヒデオ様!」


 エイジパーティとヒデオパーティの違い。

 それは異世界勇者に対して反対意見を述べる者がいるかどうかだ。


 ハインのように待ったを掛ける者が一人もいないヒデオパーティは、躊躇うこと無く前進を再開した。

 彼らが小さな洞窟を発見し、ここは違うと判断して通り過ぎたのは、それから五分後のことだ。



 エターナルウインドの一員であるハリーとロン。

 彼らは数十人の部隊を引き連れて、発見された洞窟の調査に向かった。


 本来であれば、エルネスト達に報告した後に合同で調査することになっていたのだが、『聖女』復活の手柄を女神教に取られることを恐れたイリアが独断で部隊を投入したのである。

 

 ……早い話が抜け駆けだ。


「おい、見ろよロン。……足跡だ」


「ああ。こっちの地面には文字が書いてあるぜ。なんて書いてあるかは読めないけどな」


 洞窟に入った直後、彼らは早速、人の痕跡を発見した。


 無数の足跡、地面に書かれた見慣れない文字。

 『聖女』の存在を期待するには十分だ。


「悪党の隠れ家って可能性もある。油断はするなよ?」


「わかってるさ」


 二人は松明を差した盾を構えると、奥に続く足跡を見失わないように進み始めた。

 緩やかな下りの先には、無限とも思えるほどの暗闇が続く。


 道がいくつにも枝分かれしているが、地面の足跡が続いているのは一本だけだ。

 それが目印であり道案内役になる。


「……」


 歩き始めてから十分ほど経ったかどうか。

 この世界では携帯用の時計は一般的に普及していないので正確な時間はわからないが、そんなに経ってはいないはずだ。


 とにかく暗闇の中を歩き続けて時間の感覚が無くなって来た頃、ハリーはようやく異変を見つけた。


「……待て」


 後続に待ったを掛け、そのまま斜め後ろにいたロンに小声で耳打ちする。


「奥に何かいる」


 それを聞いたロンも正面に意識を集中した。

 確かに奥の方からカチャカチャと何かの音がする。


 人か、あるいはモンスターか。

 音が規則的ではないということは、そのどちらかの可能性が高い。 


「どうする? 松明を消すか?」


 もしかすると、既にこちらの灯りに気がついてしまっているかもしれないが。


「いや、やめておこう。モンスターだったらこっちが不利になるだけだ」


 向こうはきっと暗闇での行動に慣れているに違いない。

 だとすれば視界を失った状態で戦うのは分が悪い。


 例え灯りで敵に位置がわかってしまうとしても。

 ハリーはそう判断した。


「戦闘準備。警戒して進むぞ」


 カチャカチャという物音はまだ鳴り続けている。

 ハリー達は武器を構えて警戒しつつ先へと進んだ。


「これは……」


 洞窟を抜けて広い空間へと出た彼らは、目の間に広がった光景に思わず息を呑んだ。

 

 そこのあったのは、純白の建物だった。

 建材に魔力でも込められているのか、全体が仄かに光っている。 


 まるで本当に神が住んでいるかのような神々しさだ。


「神殿か……?」 


「ハリー、見ろ」


 ロンが顎で指し示したのは、神殿の入り口だ。

 その両側には、真紅の鎧を着た二体のスケルトンが立っている。


 置物のように直立不動というわけでもなく、まるで人間のような息遣いだ。


「……どうする?」


 そう言ってみたものの、ロンはスケルトンが二体とも自分達の方向を見ていることに気がついた。

 つまり向こうも既にこちらの存在を認識しているということになる。


 しかし攻撃してくる素振りは見られない。

 ……なぜだろう?


 ハリーもまたロンの言葉に答えることなく、スケルトン達を観察していた。


(動かない? それとも動けないのか?)


 この世界には様々なモンスターがいるが、アンデッドの類というのは実は非情に少ない。

 というよりも、無生物のモンスターというのが少ない。


 なぜならモンスターというのは基本的に魔力を持った生物であって、死人が生き返らないのと同様に、無生物が魔力を浴びて動き出すことなどまずありえないからだ。

 そう……、そこに人為的な何かがなければ。


 参考となる情報が少なく、その思考パターンには不自然な意志が介在している可能性が高い。

 その事実は、ハリー達が敵を分析するのを極めて困難にしていた。


「……向こうから仕掛けて来ないなら好都合だ。排除するぞ」


 勇者教のエリート実働部隊、エターナルウインド。

 その任務は女神教におけるホーリーウインド同様に、ダーティーなものであることも多い。


 そのため、ハリーは非常に”彼ららしい考え方”で結論を出した。

 それはつまり、同じ部隊の面々にとっても疑問を感じない内容だということを意味している。


 敵はたったの二体。

 彼らは数十人で一斉に攻めれば、敵を速攻で倒せるという認識で一致した。


 邪魔者は排除する。

 それが彼らのやり方だ。


「よし、行くぞ!」


 ハリーが盾を構えて先陣を切る。

 ロン達も彼に続いて突っ込んだ。


 後衛の魔法使い数人も、既に詠唱に入っている。

 相手が先手を受けてくれるというのなら、威力を損なわない完全詠唱の方が有利だ。


「行け! アイシクル!」


「蹴散らせ! ストーンアロー!」


 ハリー達が仕掛ける直前のタイミング。

 つまりそれは敵の足止めを目的として放たれた。


 この一撃で終われば良し。

 終わらなければハリー達が畳み掛けて決める。


 ガンッ!


 スケルトン達はそれぞれの盾で魔法を防いだ。

 彼らの剣はまだ抜かれていない。


 ここまでは予想の範囲内。

 ハリー達は手慣れた様子で、防御のために動きを止めた敵に襲いかかった。

  

 剣、斧、メイス。

 数十の武器がたった二体の敵に殺到する。


 そう、いつものパターンだった。

 ……ここまでは。


 ――ボッ!


「――?!」


 彼らの武器が敵を捉える直前、スケルトン達が真紅の残像だけを残して消えた。 


 高速移動によって発生した音の胎動。


 直後、襲いかかった数十人の体は、いつの間にか抜かれていたスケルトン達の剣によって、一人残らず両断されていた。

 ロンの時間間隔では次の瞬間と言って差し支えはないはずだ。


 つまり次の瞬間、ロン達の意識は既に刈り取られていた。

 残ったのは最初の位置で魔法を放った数名のみ。


「……え?」


 彼らもまた、目の前で起こった現実を理解出来ずに固まった。

 勇者の戦いですら、こんな一瞬での決着はありえない。


 いや、勇者の中でも最上級である異世界勇者だって、こんな芸当は不可能だ。


 スケルトンと視線が交差する。 

 距離はまだ数十メートルはある。

 

 戦力差は明白、ならばここでの最善の行動は――。


「逃げっ――」


 敵と味方、両者が同時に大地を踏み込む。


 ドシュ!


「――?!」


 次の瞬間、スケルトンは一気に距離を詰めると、残りの男達を容赦無く斬り捨てた。


 勇者教の精鋭部隊エターナルウインド。

 彼らは敵に背を向けることすら出来ないままに全滅した。

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