第百三十一話 独鈷
1
「・・アンタ誰?」
拾門(ひろと)と呼ばれたオトコが不愉快そうに振り返る。
「誰でもいい。その娘、置いてってもらおう」
山崎は最初から、この2人が話の通じる相手ではないと思っている。
「なんか、ハナシ通じないみたいだね」
一二三(ひふみ)がつぶやく。
逆のことを言われ、ムッとする。
「ここじゃ騒ぎになる。表に出ろ」
山崎の言葉に、拾門と一二三がカオを見合わせる。
環が肩に担がれていくのを、店の者はみな見ないフリをしていた。
一力の門前に出ると、拾門が振り返る。
「一二三、まかせたぜ」
そう言うと、環を担いだまま走り出した。
すると、向こうから数人のオトコたちがやって来た。
原田の十番隊が見廻りをしてる。
「おい、待てよ」
拾門の前に、原田が立ち塞がった。
「ナニ、肩に担いでんだ?おめぇ」
原田の問いに、拾門は答えない。
環を肩からおろして、道の上に横座りさせる。
「・・新選組じゃん。どーすっかな」
拾門は、腰の裏側に手を回す。
原田が槍を構えた。
2
一力の門前では、山崎と一二三が向かい合っている。
「もしかして・・アンタも新選組の人?」
一二三の問いに、山崎は完全スルーで黙ったままだ。
「無視かぁ・・やなカンジだなぁ」
一二三がブツブツともらす。
「おしゃべりは終いだよ、ワッパ」
山崎が腰から抜いた棒を真横に構える。
「ワッパじゃないよ、オレもう大人だって」
一二三は腰の裏に手を回す。
「大人か・・だったら対等だな。遠慮無く行くぜ」
そう言って、山崎が走り出すと同時に一二三も走り出した。
ガチッと音がして、山崎の棍棒と一二三が抜いた得物が交わる。
「・・独鈷(とっこ)か?コレ」
山崎が低い声でつぶやく。
「おめぇ・・忍びモンか?」
「どーでもいーでしょ」
山崎と一二三が棍棒と独鈷で斬り合う。
何度か交わった後で、そのまま力較べになった。
一二三は顔立ちは幼いのに、かなりの力だ。
(こいつ・・)
山崎の額に汗が滲む。
正直、こんなに手こずらされると思ってなかった。
3
一力から100m先の小路で、原田と拾門が向かい合ってる。
原田が槍使いと見て、拾門は腰に下げた鎖を外した。
「おめぇら、手ぇ出すなよ」
原田が軽い口調で言った。
環は自分でさるぐつわを外す。
やっと口が自由になった。
「原田さん・・」
環の周りを、十番隊の隊士が囲む。
「チ・・」
拾門が舌打ちをした。
鎖を持つ拾門を見て、原田がつぶやく。
「・・おめぇ、左利きか?」
「ザンネン、両利きだよ」
拾門は薄笑いを浮かべながら言った。
「ひょっとして・・おめぇか?うちの隊士を襲ったのは」
原田が目を見開く。
「・・なんのハナシだ?」
拾門はトボけた口調だ。
「・・どうやら、ここでおめぇを殺るワケにゃあいかねぇようだな。やっぱ、捕縛だ」
原田が合図をすると、環のそばにいたほかの隊士が拾門の周りを囲んだ。
「行くぜ」
言うなり、原田が槍を繰り出す。
原田の素早い突きを、拾門がかわしながらジリジリと後退する。
後ろに隊士がいる手前で止まると、鎖を振り投げる。
鎖が槍の切っ先に、クルクルと巻かれた。
そのまま、原田の槍と拾門の鎖が力較べになった。




