剣か詠唱か
(……は??)
俺は心の中で全力でツッコミを入れた。 いやいやいや、無理だって! 生後三カ月で剣!? 生後半年で詠唱!? 赤ちゃんナメんな! こちとらまだ首も据わっとらんわ!
前世の常識で言えば、生後三カ月なんて、ようやく「あー」とか「うー」とかいう(クーイングというらしい)意味のない声を発し始める頃だ。剣どころか、自分の手すらまだうまく認識できていない。
しかし、目の前の最強(で、おそらく常識が欠落している)両親は、至って真面目な顔で俺を見つめている。 父ウォルターは「当然、剣だろう」という圧を金色の瞳でかけてくるし、母アナスタシアは「魔法のほうが素敵よ」と紫色の瞳で微笑みかけてくる。
(ど、どうすりゃいいんだ……!)
ここで無反応を貫いたら、「なんだ、こいつは凡才か」と失望されるのだろうか? いや、それはマズイ。神様が用意してくれたせっかくのサラブレッド人生、スタートダッシュでこけるわけにはいかない。
(かといって、どうやって意思表示をしろと?)
喋れない。動けない。ほぼ寝たきり。 できることと言えば、泣くか、笑うか、手足をバタつかせるか、くらいだ。
「ふむ……悩んでいるのか、セシル」
父ウォルターが、俺の小さな胸元に、ゴツい人差し指をそっと近づけてきた。
(うわ、指、太っ!) その指先から、ピリピリとした、静電気のような……いや、もっと鋭く、熱い「何か」を感じる。 これが……「闘気」とかいうやつか?
(や、やめろ、なんかゾワゾワする!)
不快感で、思わず手を(と言っても、まだグーしか握れないが)バタつかせた。
「ほう! 見たかアナスタシア! 俺の『剣気』に反応して、拳を握ったぞ!」
父がカッと目を見開いて叫んだ。
(違う! 鬱陶しいから振り払おうとしただけだ!)
「あら、あなた。それは違いますわ」
すかさず母アナスタシアが、俺の額に優しく手をかざす。 今度は、父とは対照的に、ひんやりと、それでいて穏やかで心地よい「何か」が流れ込んでくる。
(お……? これは……なんか、気持ちいいぞ……)
これが「魔力」か。さっきまでの父の圧とは大違いだ。 心地よさに、思わず「あうー」と、自分でも何を言っているか分からない声が出た。
「聞きましたか、ウォルター! 私の『魔力』に呼応して、セシルが『理』を発しましたわ! これは古代語の『是』の原型!」 母が(おそらくは産後のハイも手伝って)とんでもない拡大解釈を始めた。 (いや、「あうー」だから! 意味なんかないから!)
「「……」」 最強の両親は、俺を挟んで互いを見つめ、火花を散らしているように見えた。
「……ふん。ならば、両方だ」
先に口を開いたのは父だった。 「生後三カ月で剣を握らせ、生後半年で魔導書を読ませる。それで文句あるまい」
「まあ、あなた! さすがは剣聖、決断が早くて合理的ですわ!」
(……は????)
いや、合理的じゃない! むしろ無茶が倍になっただけだ! 俺の心の絶叫は、最強の両親には届かない。
「うむ。決まれば早いほうがいい。アナスタシア、明日から『乳飲み子用の筋力トレーニング理論書』と『赤子の魔力循環を促す古代ルーン文字の絵本』を取り寄せるぞ」
「ええ、承知いたしましたわ! ああ、忙しくなる!」
(……神様。俺、やっぱりカマドウマのほうが……) 俺が(中身29歳)人生で初めて「絶望」という二文字を真に理解したのは、生後わずか一日にして、第二の人生の過酷なロードマップが決定した、この瞬間だった。
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