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転生

 どこにでもあるような普通の人生。


 それなりの大学を出てそこそこの半導体商社に入社し、現在独身の二九歳。


 ちなみに恋人はいないわけではなく、作っていないと明記しておこうか。いや、それは負け惜しみか。この二九年間恋人など出来たことがない。


 顔は平々凡々、身長だって低くない。何度かクラスメイトに告白したことがあるがそのたびに玉砕してきた。


 社会人になってからいいな、と思った子はすでに恋人がいるか既婚者。童貞に毛が生えたような俺の出番があるわけもなく、このままでは魔法使いになる一歩手前であるが、幸いなことに俺は魔法使いになることはなかった。


 三〇歳になる前に死んだからだ。


 死因は事故死。


 目の前を走る暴走トラックから子供を救い出して運悪く俺だけ頭部を負傷、そのままあの世に行ってしまった。


 あーあ、人生ってあっけないね。二九年努力してきても死ぬときは一瞬だなんて……。


 そのように嘆き悲しんでいるとどこからともなく声が――。


「――悠人よ。田中悠人よ」


「ん? この声はなんだ?」


「わしじゃよわし」


「わしじゃよわしってなんだよ。わしわし詐欺かよ」


「違う違う。神じゃよ」


 へえ、と驚くことはない。死という予定外の事実を受け入れることが出来たのだ、神という超越者が出てきても驚くことはない。


「それで神さま、俺なんかに何の用だ?」


「おまえは生前、たいした才能もない代わりに悪いこともせずにただ無為に二九年の人生を過ごしてきたな」


「事実だけど他人に言われると腹が立つな」


「しかし、最後の最後で子供を助けるという超ファインプレーをした。そこが偉い!」


 まあ、偉いって言われるのは素直に嬉しいかな。


「そこでじゃ。本来ならカマドウマに生まれ変わるはずだったおまえの転生先を変えてやろうと思ったのじゃ」


「まてまて、俺ってカマドウマになる予定だったの? 俺って人生でそんな悪事働いた?」


「こういうのは輪番制でな。しかし、転生先を変えてやると言っておるじゃろう」


「それはありがたいな。次は金持ちに家の子にしてくれ。イーロンマスクの子供がいい」


「それはできないが、おまえをアストリアという異世界に転生させてやろう」


「異世界かあ」


 よく小説や漫画であるパターンだ。みんな喜ぶが俺はどうも。現代子なので電気とガスがない生活など考えられない。


「まあまあ、それもなれるものじゃよ」


「俺の心読めるのな」


「かりそめにも神じゃからな」


「じゃあ、その世界でもいいけど、なんかチートを用意してくれよ」


「あ、わし、そういうのやってないから」


 神はあっけらかんという。


「人を転生させておいて無責任な」


「代わりにおまえの父と母は最高の人材を用意しよう。おまえの父親は剣聖、母親は大魔術師じゃ」


「へえ、そりゃ、すごい」


「そんなサラブレットの元に生まれて英才教育を受ければおまえは最強になるだろう」


「たしかにそうかも。ありがとう、神さま」


 素直に礼を言うと俺は目を瞑る。すると田中悠人としての実体が消え去り、新しい転生先の赤子へと変貌していく。


 同時刻、アストリアにひとりの男児が生まれる。その子の名はセシル・ファインダー、剣聖の子にして大魔術師の子、後に――と呼ばれる存在になる赤子であった。

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― 新着の感想 ―
後に一一(にのまえはじめ)と呼ばれる存在になるんですね(違う
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