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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅵ パールの月
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 湖畔に建つペンションのダイニングでは、ニース、ガッタ、それからルナールの三人がチーズフォンデュを楽しんでいる。

 いや、正確に言うと、楽しんでいるのはガッタとルナールの二人だけかもしれない。


「しろいほうが、あっさりしてるね」

「ホワイトアスパラガスは、日光に当てないで栽培するから、青臭さが少なくなる」

「じゃあ、こんどは、さっきたべたむらさきの」

「ちょっと待ってくれ、ガッタ。どうして今日は、僕にばかり頼むんだ?」


 ガッタに食べさせてばかりで、自分で食べる隙が無いニースは、フォークを取り皿の縁に置いて疑問を呈した。

 二人の向かいの席に座るルナールは、鍋の中のチーズの嵩が減ってきたのに気付き、三角に切ったチーズの塊を手に取り、(やすり)状のグレーターで削って鍋に追加する。


「ニースにおねがいしたいからなの。あっ、ニースもたべさせてあげよっか?」


 ニースのフォークをガッタが手に取ろうとしたので、その指が触れる前にニースはサッとフォークを持ち、ズッキーニに刺してチーズの池に潜らせる。


「答えになってないし、僕は大人だから、自分で食べられる」

「えんりょしなくてもいいのに。ねっ、ルナール?」

「きっと、ニース様は恥ずかしいのよ、ガッタちゃん」

「なんで、はずかしいの? ルナールがみてるから?」

「しばらく席を外しましょうか?」


 ルナールが席を立とうと腰を浮かせたので、ニースはそれを止めてから、ガッタに複雑な心境を伝えようとする。


「二人きりにしないでくれ。別に、恥ずかしいからではない。ただ」

「じゃあ、いいじゃない。きーまった!」


 ガッタは、ニースの話を途中で遮り、腕を伸ばしてニースの手からフォークを奪い取り、チーズが落ちないようにクルリクルリと向きを変えつつ、ニースの口元に差し出す。


「はい、あーんして?」

「……あー、んっ!」


 ニースは、ルナールから好奇の目で見られているのに気にしつつも、無邪気な笑顔で見つめるガッタを無下に出来ず、口を開けてズッキーニを頬張った。だが、まだチーズが冷めていなかったため、ニースは片手で口を押さえながら俯き、しばし仔犬のようにプルプルと小刻みに震えた。


「ニース、だいじょうぶ?」

「……あぁ、平気だ。ルナール、水を」

「はい」


 あっつあつのチーズに包まれたズッキーニを何とか咀嚼して嚥下すると、ニースは平生を装ってガッタの呼びかけに応え、すぐにルナールの方を向いて言った。

 ルナールは、ニースの目元に薄っすら涙が浮かんでいるのに気付きつつも、素知らぬ顔で水を入れたグラスを渡した。

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