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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅳ ダイヤモンドの月
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070

 青天白日。ガニュメデス邸に、朝日が燦々と降り注いでいる。

 階段下の踊り場に掛けてある振り子時計の前では、時代掛かった燕尾服を着たサーヴァが、ガラス扉を開け、真鍮製の懐中時計を片手にしながら、文字盤にバタフライ型のネジ巻きを差し込んで慎重にゼンマイを巻いたり、静かに長針を回したりして時刻を合わせていた。


「ウゥム。鐘の鳴りが、一回が多いですねぇ」


 サーヴァは、十五分ごとに長針を前後させ、定時に数が合うように調節してから、ネジ巻きを振り子の玉が当たらない隅へ置いた。


「さぁて。これでよろしいでしょう」


 振り子の玉を右へずらしてから手を離すと、カチコチと軽快に歯車が回る音とともに、一定のリズムで振り子が左右に動き出した。

 サーヴァは、動作中に異音がしないことや、時刻のズレが無いことを確かめてから、ガラス扉を閉め、懐中時計をベストのポケットに差し込んだ。

 そこへ、廊下をパタパタと駆けてくる足音とともに、ガッタの声が聞こえた。

 

「サーヴァ、ただいま!」

「お帰りなさい、ガッタさん。今朝も元気ですね」

「げんきげんき。ねぇねぇ、きいて。ニースは、あっちむいてホイによわいの!」

「おや? 何ですか、その、あっちむいてホイとは?」

「じゃんけんポンでかったら、まけたひとに、うえかしたか、みぎかひだりか、どこかをゆびさすの。で、まけたひとが、ゆびとおんなじほうをむいたら、だめなの」


 ガッタがジェスチャーを交えて説明すると、サーヴァは顎に手を当てて一考してから感心する。


「ほぉ。それは、面白い遊びを考えましたね」

「一インチも面白いところは無い」


 ガッタとサーヴァの会話に、両手で二つのトランクを持ったニースが横槍を入れた。


「おや、坊っちゃん。お帰りなさいませ。ルナールは、どうしました?」

「旅先でガッタの世話を任せた分として、今日はゆっくり休んで疲れを取るように言って、家の前で降ろしてきた」

「お優しいことですな。坊っちゃんとて、お疲れでしょうに」


 サーヴァは会話をしつつ、さり気なくニースの両手からトランクを預かった。このあたりの機転と身のこなしの洗練され具合は、さすが執事といったところである。


「まぁ、道中に色々あったが、総合的に判断して、実りのある旅行だった」

「たのしかったよね、ニース」

「ホホッ。仲睦まじい様子で、たいへん結構です。ブレックファーストは、もうお済みですか?」

「いや、まだ食べていない。適当に用意してくれ」

「承知いたしました。――ガッタさんには、食べられない物はありますか?」

「きんかとぎんか!」

「なるほど。では、その二つは使わないようにいたしましょう」


 サーヴァは、二人に丁寧に一礼してから二階へ上がり、ニースは温室へと向かって歩き出した。ガッタは、しばしサーヴァのことが気になって後ろ姿を見つめていたが、ニースが廊下の角を曲がってしまう寸前に、あとを追い駆けるべく走り出した。

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