058
朝日とともにスッキリ目覚めたガッタは、ルナールに渡されたワンピースに着替え、タッタッタと階段を下りて行った。
そして、ダイニングでシュヴァルベが寝ているのに気付くと、ソファーの周りをちょろちょろ動き回りながら、瞼をつまみ上げて白目を剥かせたり、尾羽を引っ張ってみたりして起こしにかかった。
「スバル、あさだよ。ねぇ、スバル。おきて!」
「ううっ……、起きてるって」
「ねてるじゃない。そんなんだから、チンチクリンっていうのよ?」
「わかった、わかった。起きるから、姉ちゃんの口真似をするな」
シュヴァルベは、二日酔いが残る頭に鈍い痛みを感じつつ、身体を起こしてソファーから立ち上がり、シャワーを浴びようとユニットバスへ向かった。それと同じくらいのタイミングで、二階からルナールとニースが降りて来た。足音が聞こえたガッタは、急いでニースに駆け寄った。
「おはよう、ニース」
「おはよう。昨夜は、眠れたかい?」
「うん。ぐっすりだった」
「それは結構」
「きょうは、なにするひなの?」
「今日は、マーケットに行ってみようと思う」
「マーケットは、きのうもいったよ?」
「昨日とは違うエリアで、野菜や魚などの生鮮品を扱う店が多い場所に行こうと思うんだ」
「ふぅん。おやさいとおさかなのところなのね」
「そう。でも、その前にブレックファーストを済ませることが先だ。空腹では、頭脳も身体も働かない」
ガッタとニースが話しているあいだに、玄関ドアをノックする音がした。誰が来たのか察知したルナールがエントランスへ向かい、何気ない挨拶やら雑談やらを交わしたあと、布巾が掛けられた籐のバスケットを持って戻ってきた。布巾の下からは、細長いバゲットがはみ出している。
焼きたてのパンの香ばしさに釣られるように、ガッタはルナールに近付き、沸々と浮かび上がった質問を次々に投げかける。
「ねぇ、ルナール。いまのひとは、だぁれ?」
「このビーアンドビーを経営してるオーナーさんよ。ニース様とは、古いお知り合いなの」
「へぇ。そのオーナーさんは、どんなひとなの? かっこいい?」
「そうねぇ。カッコイイというより、ダンディーと言った方が良いかしら。でも、見た目に反してシャイな方だから、ガッタちゃんに会ったら、きっと困惑しちゃうわね」
「そっかぁ。それで、そのなかみは?」
「ブレックファーストよ。ここに泊まるお客さまには、いつも手作りのお料理をサービスしてるんですって」
「そうなんだ。いいにおいがするね~」
バスケットをダイニングテーブルへ置き、ルナールがテーブルセットを始めると、ガッタはルナールを手伝い、ランチョンマットの上にスプーンを並べはじめた。
そこへ、シュヴァルベが現れ、タオルを頭に掛けてワシワシと片手で拭きながらテーブルの横を通り過ぎ、中央に置かれたバスケットの中身を気にしつつ、ソファーへ向かい、先に寛いでいるニースの横へ座った。
「腫れは引いてたよ」
「そうか」
「頭痛がするんだけど、何かアドバイスはある?」
「しばらく酒を控えるように」
「薬師の先生らしいや。それが出来たら、苦労しない」
男性陣が話しているあいだに、テーブルの上には、スライスしたバゲット、レタスとグレープフルーツのサラダ、白身魚のカルパッチョなどが並び、彩り鮮やかな食卓が出来上がっていった。




