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部屋に荷物を置くや、誰よりも早くソファーで横になり、ものの数秒でイビキをかきはじめたシュヴァルベをビーアンドビーに残し、ニース、ガッタ、ルナールの三人は最低限の手荷物だけ持ってマーケットへ向かった。
ニースは、シルキーグレーのスプリングジャケットを羽織るだけの軽装で、ガッタは、猫耳がついたお気に入りのキャスケットをかぶり、レモンイエローのワンピースに着替えている。手回り品は背負っているリュックに入れてあるので、ガッタも両手が空いている。
例外はルナールで、大人の女性のアレコレを入れた小さめのデイリーバッグを左腕に提げている。三人の並びは、ガッタの右手にルナールが立って手を引き、その前をニースが先導するように歩いているといった具合である。
しばらく三人は、スパイスの香ばしい匂いに誘われたり、ドライフルーツが紐に鈴なりになっているのに興味を惹かれたり、スチームで蒸し上がったばかりの軽食を試食したりしながら、混み合う商店街をブラブラ歩いていた。だが、そのうちに、ニースは人の多さに辟易し、ガッタは空腹を訴えはじめたので、カフェで休憩することにした。
「ご注文の品は、以上でお揃いでしょうか?」
「これで全部だ」
「では、ごゆっくりどうぞ」
フラミンゴのような淡いピンクの尾羽を持つ細身で背の高いギャルソンが席を離れると、ガッタはニースの顔を見て待ちきれない様子で言う。
「たべてもいい?」
「あぁ。ルナールも、遠慮しなくていいから」
「そうですか。では、いただきます」
ガッタがスプーンでサンデーの頂点に乗っているイチゴを掬って口に運んだり、ルナールがトリハスにサクサクとナイフを入れたりしているのを、ニースはカプチーノを片手に眺めている。
「サンデーは美味しい? ガッタちゃん」
「あまくておいしい。ルナールは?」
「美味しいわよ。ひと口あげるわ。はい、あーん」
「あーん。……あっ、さいご、ちょっとスーッとするね」
「シナモンが入ってるからよ」
「ふぅん。はい、ルナールも」
「あら、いいの? フフッ。いただくわね」
ガッタは二層目のメープルシロップがかかったカットイチゴを掬い、ルナールに向けて食べさせた。その様子を、すっかり打ち解けてきて結構だといったように観察していたニースだったが、ニースの視線に気づいたガッタは、ルナールが食べ終えて空になったスプーンをサンデーへ運びつつ、ニースの顔を見ながら首を傾げて訊いた。
「ニースも食べる?」
「いいや、僕は結構だ。あとは一人で食べなさい」
どうやらガッタは、仲の良さを微笑ましげに見ていただけのニースを、自分のサンデーを狙っていると勘違いしたようである。
ニースに断られたガッタは、どこか腑に落ちない顔をしたが、すぐに三層目のアイスにスプーンを差し込んだ。




