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旅は道連れ、世は情け。三人で乗るのも四人で乗るのも一緒だろうという理屈で、シュヴァルベは、ガッタたち三人と同じコンパートメントに相席した。座席料は、一区画まとめてニース持ちである。
車掌から切符を購入する際、財布を出したので、ついでにニースは、ガッタに貨幣について教えておくことにした。
「これが金貨。見ての通り銀貨よりひと回り大きく、縁に溝があるのが特徴だ」
窓辺にあるテーブルに、同じ横顔が彫られた金貨と銀貨を並べてニースが説明すると、向かいの席に座るガッタが素朴な疑問をぶつける。
「なんでぎんかとおんなじにしないの?」
「良い質問だね。もし、まったく同じ大きさだとしたら、薄暗いところで一枚だけ渡された時に、どうなる?」
「う~ん。あっ! きんかかぎんかか、わかんなくなっちゃう」
「そういうこと。それから、わざわざ溝を彫ってあるのは、何枚か縁を丸く削って小さくし、その時に出る削り屑を集め、もう一枚作るといった小賢しい真似が出来ないようにするためなんだ」
「そんなことするひと、いるの?」
ガッタが不思議に思っていると、隣に座るルナールが目の前のシュヴァルベに鋭い視線を向けながら言う。
「似たようなことをしたひとなら、そこにいるわ」
「ちょっと待てよ。俺が、いつ、硬貨の偽造をしたっていうんだ?」
「コインじゃないわ。でも、いつだったか、ディナー用に鍋で寝かせておいたシチューをつまみ食いして、減った分だけ水を入れて誤魔化したことがあったじゃない」
「ガキの頃の話だし、その後、しこたま怒られた奴じゃねぇか。今頃になって持ち出すなよ」
「しこたま?」
ガッタが姉弟喧嘩に口を挟むと、ニースは二人を無視してガッタに言う。
「そのような変な言葉は、覚えなくてよろしい。それより、今度は、これらの使い方を教えよう」
「はーい」
買い物の場面を想定し、ニースがガッタに何枚かの硬貨を渡してやり取りをさせ始める。
すると、新鮮なリアクションを見せるガッタを見ながら、ルナールの獣耳を上へ引っ張っていたシュヴァルベが、耳から手を離し、意外そうな表情をして言う。
「おいおい。このお嬢さんは、おつかいに行ったことが無いのか?」
「あるわけないでしょ。あぁいう邸宅には、ちゃんと御用聞きがいて、野菜だろうと魚だろうと、決まって市場から通用口まで配達してくれるんだから」
「ほぉ、そういうものなのか。便利なものだ」
シュヴァルベの鼻を下へ引っ張っていたルナールは、鼻梁を摘まむ手を離し、呆れたような調子で応えた。
このあと、ニースがガッタにお金の扱いについて滔々と述べているあいだに、汽車は旧市街の最寄り駅へと到着した。




