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「ニース、おかえり~」
「ただいま、ガッタ」
勢いよく自分に向かってきたガッタを、ニースはトランクを床に置き、両手を自由にして受け止めた。
そして、へその辺りに額を押し付けているガッタの後頭部を撫でつつ、エプロンをしたルナールに労わりの言葉と提案をする。
「ガッタの世話をしてくれてありがとう。代わりに、三日ほど休みを出すか、それとも保育料を上乗せしようかと思うんだが、どちらが良いだろうか?」
「どちらも結構ですよ。ボランティアのつもりでしたから」
「そういう訳にもいかないだろう。丸二日も子供の面倒を看るのは、骨が折れたはずだ」
「いいえ。ガッタちゃんがいてくれたおかげで、楽しい週末になりましたし、私の愚弟より、よっぽど手間の掛からない良い子でしたから」
「しかし……」
「良いんです。お気持ちだけ、ありがたく受け取りますから」
「……ルナールが良いなら、それでも良いが」
しばし黙考したのち、ニースは提案を退け、抱きついたまま腹に顔をうずめているガッタに声を掛けた。
「そろそろ放してくれないか、ガッタ」
「ニース、つかれてるから、パワーおくるの」
「あらあら。そういう理由だったのね」
「参ったな。疲労の色が隠せてないのを見破られるとは」
足取りが重いことや、薄っすらと目の下がくすんでいることに気付いていたルナールは、それを看破していたガッタの行動と、気付いていないと思っていたニースの鈍感さを微笑ましく想いつつ、仕事モードに頭を切り替えた。
「お疲れのようですけど、ブレックファーストは、何にいたしましょうか?」
「僕の分は、紅茶だけで結構だ。食欲が湧かない」
「承知いたしました。では、すぐに用意いたします。お荷物、お預かりしますね」
「あっ、待って。わたしも~」
ルナールが一礼し、トランクを持って立ち去ろうとすると、ガッタは、そのあとに続いていった。
ニースは、二人の後ろ姿を見てフッと小さく笑ってから、薔薇の様子を確かめるべく、温室へと向かった。




