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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅲ アクアマリンの月
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044

「ニース、おかえり~」

「ただいま、ガッタ」


 勢いよく自分に向かってきたガッタを、ニースはトランクを床に置き、両手を自由にして受け止めた。

 そして、へその辺りに額を押し付けているガッタの後頭部を撫でつつ、エプロンをしたルナールに労わりの言葉と提案をする。


「ガッタの世話をしてくれてありがとう。代わりに、三日ほど休みを出すか、それとも保育料を上乗せしようかと思うんだが、どちらが良いだろうか?」

「どちらも結構ですよ。ボランティアのつもりでしたから」

「そういう訳にもいかないだろう。丸二日も子供の面倒を看るのは、骨が折れたはずだ」

「いいえ。ガッタちゃんがいてくれたおかげで、楽しい週末になりましたし、私の愚弟より、よっぽど手間の掛からない良い子でしたから」

「しかし……」

「良いんです。お気持ちだけ、ありがたく受け取りますから」

「……ルナールが良いなら、それでも良いが」


 しばし黙考したのち、ニースは提案を退け、抱きついたまま腹に顔をうずめているガッタに声を掛けた。


「そろそろ放してくれないか、ガッタ」

「ニース、つかれてるから、パワーおくるの」

「あらあら。そういう理由だったのね」

「参ったな。疲労の色が隠せてないのを見破られるとは」


 足取りが重いことや、薄っすらと目の下がくすんでいることに気付いていたルナールは、それを看破していたガッタの行動と、気付いていないと思っていたニースの鈍感さを微笑ましく想いつつ、仕事モードに頭を切り替えた。


「お疲れのようですけど、ブレックファーストは、何にいたしましょうか?」

「僕の分は、紅茶だけで結構だ。食欲が湧かない」

「承知いたしました。では、すぐに用意いたします。お荷物、お預かりしますね」

「あっ、待って。わたしも~」


 ルナールが一礼し、トランクを持って立ち去ろうとすると、ガッタは、そのあとに続いていった。

 ニースは、二人の後ろ姿を見てフッと小さく笑ってから、薔薇の様子を確かめるべく、温室へと向かった。

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