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ティータイムのあと、ルナールはディナーを用意するあいだ、ガッタに屋根裏部屋でシュヴァルベと遊んでいるよう言った。
「この家には玩具が無いから、そこのツバメで我慢してね。抛り投げようが噛みつこうが、好きにして良いから」
「はぁい」
「俺を人形の代わりにするなよ」
文句を言いつつも、シュヴァルベはガッタに付き合い、手遊びや言葉遊びを教えたのであった。
最初のうちは大人しくしていたガッタであったが、どうやら、もっと派手に身体を動かす方が性に合っていたようで。
「ハイヨー、スバルー!」
「ちょっ、ちょっと待て。少しは休ませてくれ」
食事の支度が整ったルナールが呼びに上がる頃には、ガッタは四つ這いになったシュヴァルベに跨り、踵で太ももを蹴って発破をかけていた。
ディナーを済ませたあと、シュヴァルベは早々に自分の部屋に上がり、ガッタとルナールは、後片付けを終えてシャワーを浴びた後、ルナールの部屋へと移動した。
「ベッド、狭くないかしら?」
「ううん、へいき。あったかいね、ルナール」
窓辺に置かれたベッドの上で、ネグリジェ姿のガッタとルナールが横になっている。カーテンは掛けられているので月明りは入らないが、サイドテーブルの上に置かれたランタンの火が灯されているので、二人の表情やベッド近くの様子は視認できる。
ガッタは、ルナールの頭上や背後を見ながら、好奇心を隠し切れない様子で言った。
「おみみとしっぽ、さわってもいい?」
「気になるの? いいわよ」
「わぁ。ふかふかして、きもちいい」
狼特有のモフモフとした触り心地を堪能すると、ガッタは、次第次第に瞼が重くなり、欠伸をもらすようになった。
「今日はいつもと違う家に来て、よく食べて、いっぱい遊んで、もう疲れたでしょう。ゆっくり寝ないと、明日も元気に過ごせないわ」
「うん。……おやすみなさい」
「おやすみ。よい夢を」
ルナールに頭を撫でられ、胸を軽くポンポンと叩かれているうちに、安心して眠くなったガッタは、スースーと寝息を立てはじめた。
ガッタの寝顔を見つめながら、ルナールは愛しそうに目を細める。そして、毛布をガッタの肩口まで引き上げると、起こさないように慎重に身体の向きを変え、ランタンの火を吹き消した。




