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「あおむしさんみたいね」
「ふふっ。そうね」
ルナールは、ガッタが繋いだ生地を輪にして一周近く縫ったあと、長細い袋状になった生地の返し口から少しずつ中の生地を出し、表向きに返し始めた。
「あっちで、ジリジリいってるよ?」
「あら、いけない。オーブンのタイマーだわ。ちょっと待ってて」
ルナールは、途中の生地を裁縫箱の蓋の上に置くと、ダイニングへと向かった。
そのあいだ、ガッタは裁縫箱の中身が気になり、レディースハットを模したピンクッションを手に取り、フチを持って裏返した。
帽子なら頭が入る部分が蓋されているのを見たガッタは、予想が外れ、驚きと落胆が綯い交ぜになった口調で言う。
「なぁんだ。これじゃあ、こびとさんもかぶれないなぁ」
ガッタは、ピンクッションを表に向け、ルナールの様子を見にダイニングへ移動した。
ダイニングでは、両手にミトンをしたルナールが、布巾を敷いたまな板の上にスポンジ生地をひっくり返して置いたところだった。
それを見たガッタは、不思議そうに訊ねた。
「なんで、さかさまにしてるの?」
「あぁ、ガッタちゃん。熱いまま型から外そうとすると、生地が型にくっついてダメになっちゃうの。だから、このままそっとしておくのよ」
「へぇ~」
「生地が冷めるまで特にすることは無いから、さっきの続きをしましょう」
「はぁい」
ガッタの背中を押して誘導しながら、ルナールはダイニングから自分の部屋へと移動した。
部屋に戻ると、裁縫の続きに取り掛かり、ゴム紐を入れ、返し口をコの字綴じにして仕上げた。
「はい、出来上がり」
「これが、シュシュ?」
これで完成なのか、とでも言いたげな意外そうな顔をして、ルナールからシュシュを渡されたガッタは、まじまじと手元を見つめた。
裁縫箱を片付けてから、ルナールはガッタに聞いた。
「そうよ。それが、シュシュ。ひょっとして、見たこと無かったの?」
「ない。なににつかうの?」
ガッタがシュシュの両端を持って伸び縮みさせているのを見て、ルナールはチェストの引き出しを開け、レースで出来た別のシュシュを手にした。そして、うねる横髪を一束にして結びながら説明する。
「シュシュっていうのは、こうやって髪をまとめるのに使うのよ」
「リボンといっしょ?」
「そうそう。シュシュを使えば、リボンみたいに、いちいち結ばなくて良いの。便利でしょう?」
「べんりだね~。つけてもいい?」
「もちろん、いいわよ。つけてあげようか?」
「つけて、つけて!」
ガッタは、興奮気味にルナールへシュシュを渡した。
受け取ったルナールは、前髪を掻き上げてひとまとめにし、根元をシュシュで留めた。そして、ドレッサーからの前にあるスツールにガッタを座らせ、楕円の鏡を覆っているコットンレースの薄布を取ってみせた。




