037
それから、ランチも終えた昼下がりのこと。
シュヴァルベが外出しているあいだに、ルナールとガッタは、スポンジケーキを作っていた。
「うぅ~、うでがいたい」
「あらら。ガッタちゃんには、お道具が大きすぎたわね」
ルナールは、ガッタの手からボウルと泡立て器を取り上げると、シャッシャッシャッと手際よく卵白をかき混ぜていく。
すると、そのうち透明だった卵白が、真っ白なメレンゲへと代わり、気泡を含んだことで、何倍もの体積に膨らんでいく。
ガッタは、その変化にワァと歓声を上げ、ボウルを逆さにしてもこぼれない程度まで泡立つと、その場でキャッキャと飛び跳ねた。
「すごいね、ルナール。雲みたい」
「そうね、ガッタちゃん。――それじゃあ、ここにさっきの卵と粉を合わせていきましょう」
ルナールは、別のボウルで混ぜておいた卵黄の上に、泡立てたばかりの卵白を数回に分けて加える。
馴染んできたら、泡だて器をヘラに持ち替え、ボウルに篩った小麦粉を加え、気泡を潰さないようにサクサクと軽く混ぜていく。
ガッタは、一瞬も見逃すまいとするように、ルナールの手元や、時々刻々と変化する生地をつぶさに観察していた。
その後、型に流し込んだ生地を、スチームオーブンに入れてセットしたルナールは、ガッタと一緒に奥の部屋へと移動した。
ダイニングの隣はルナールの部屋で、物置のように雑然とした屋根裏部屋とは違い、整理整頓が行き届き、スッキリとした印象を与える。そして、出窓の小さな花瓶に生けられたミモザが、季節の彩りを加えている。
ルナールは、キルトのカバーのかかったベッドに腰を下ろし、すぐ横をポンポンと平手で叩きつつ、ガッタに隣へ座るよう促す。
「ここへおいで」
「はぁい。わぁ~、このぬの、いろんないろでいっぱい」
「パッチワークというのよ。簡単なパターンなら、ガッタちゃんにも出来るんじゃないかしら」
「パターン?」
ガッタが首を傾げると、ルナールはキルトの一部を指でなぞりながら説明する。
「ほら。ここと、ここは、同じ三角の模様が続いているでしょう。それから、こっちは菱形が互い違いになってるのよ」
「ホントだ! おんなじかたちが、ずーっとつづいてる」
「基本的な縫い方が分かれば、ベッドカバーは無理だけど、シュシュくらいなら、すぐ作れるわ。作ってみたい?」
「作ってみたい! どうやるの?」
「分かったわ。でも、その前に、怪我をしないように、いくつかお約束してね」
ルナールは、針やハサミを使う時の注意事項を告げ、危ない真似をしないことを約束させると、ベッドから立ち上がり、裁縫用具が入ったカゴと、キルトに使えそうな端切れを用意し始めた。




