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そして、週末を迎えた。
サターンの日の朝にニースが馬車で出掛けた後、ルナールはガッタの手を引き、自分の家まで連れてきた。
ルナールの家はニースの屋敷とは違い、玄関先に申し訳程度の庭が付いているくらいの、小さな民家である。家の中は、百年単位で時が止まったままの邸宅と違い、文明的な設備がチラホラ散見できる。
「ウェイクアーップ!」
「ぎゃお!」
家に到着したガッタがルナールから最初に任されたのは、放って置くと昼まで寝ているシュヴァルベを起こすことだった。
ガッタは、勢い良く両足を揃えてジャンプし、大口を開けて寝ているシュヴァルベの毛布の上にダイブした。
シュヴァルベは毛布をめくり、よろよろと横腹を押さえながら起き上がる。
あぁ、そういえば、今日から嬢ちゃんを預かることになったんだったなぁ。
シュヴァルベは、前夜のルナールの伝言を思い出しつつ、毛布の上を転がりながらニコニコしているガッタの姿を見て言った。
「ガッタ。もう少し、マイルドに起こしてくれないか? おぉ、いてぇ……」
「だってね。ルナールが、スバルは、ちょっとやそっとではおきないっていうから」
「だからって、寝込みに飛び込んでくる奴があるか。万が一にでも大事なところが潰れたら、どうする?」
「だいじなところって?」
「もちろん、そいつは……、ゴホン。ともかく! 普通に起こしてくれ」
「どうやって? ちょっとやそっとでは、おきないんでしょ?」
「それは、ただ名前を呼ばれたくらいじゃダメだってこと。頬を叩くとか、肩を揺するとか、ちょっとした刺激があれば起きるから。いいか?」
「わかった。あしたは、ちょっとしげきにする」
納得したガッタは、ベッドから降り、階段をタッタッタと下りて行った。
シュヴァルベが寝ていたのは屋根裏部屋で、階段の下はダイニングキッチンへと続いている。
「スバル、おきたよ」
「ありがとう。すぐに起きた?」
「うん。でも、あしたからは、マイルドにするの。かたをたたいたら、おきるんだって」
いったい、どうやって起こしたのやら。ルナールは、ガッタの起こし方が気になりつつも、三等分したクレソンとスライスした玉ネギをレモン汁で和え、それを三枚卸しにして斜め切りした細魚と合わせ、平皿に盛り付ける。
ガッタは、報告を終えてミッションクリアしたところで、シュヴァルベのことなどスッカリ忘れ、テーブルに用意されたライ麦パンやサワークリームに興味が移っていた。




