表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅲ アクアマリンの月
33/181

033

「ニース、いたいよ~」

「血が止まれば、そのうち痛みも引くから、辛抱しなさい」


 ニースは、日陰で生え放題になっているドクダミの葉を摘むと、平たい石の上に座らせているガッタの膝に当てた。

 ガッタは、押し当てられたドクダミの葉を凝視しながら、下唇を噛んで痛みを我慢し始める。

 しばし、二人はジッと動かないまま、沈黙を守った。そよ風が吹き抜け、新緑をざわわといわせる音や、小鳥がさえずる声だけが聞こえる時間が流れた。

 流血が止まり、傷口から熱が引いたことで、痛みが緩和されたからだろうか。それとも、単純に、お喋りの虫が再び騒ぎ出したからだろうか。

 ニースが膝を押さえる手を離して靴紐を結び直すと、ガッタはニースが予想だにしないことを口走った。


「はっぱいちまいで、いたいのをとんでいかせるなんて、ニースは、マジシャンみたいね」

「それは、魔法使いという意味かい? それとも、奇術師という意味かな?」

「どっちなの?」

「どちらでもない。僕は、一介の学者だ。知識を重んじ、それを社会を改善するために、適切に使用することを旨とする生き物さ」

「ふぅん」


 ガッタは、ニースの説明に対し、分かったような分かってないような生返事をした。

 そして、傷口が開いて血が出ないか、おそるおそる膝を曲げ伸ばしして確かめると、石の上からぴょんと降り立ち、そのまま石の周囲を歩いてから、ニッコリ笑ってニースに手を伸ばした。

 その反応を見たニースは、擦り傷の具合が良くなったと判断し、伸ばした手を取り、ルナールたちが待つ場所まで移動していった。


 このあと、日が暮れる前にニースたちは屋敷に戻り、早めのディナーを済ませると、ルナールはシュヴァルベを引っ張って帰って行った。

 家に帰ったシュヴァルベが、ルナールから懇々と二時間にわたる説教を食らったのを、ニースとガッタは知る由も無かった。

 

「きょうは、シャワーじゃないのね」 

「せっかく塞がりかけた傷口が悪化してはいけないからね。気持ち悪くは無いかい?」


 バスルームで、ニースは洗面器に人肌のお湯を張り、濡らしたタオルでガッタの小さな背中を拭きながら訊ねた。ガッタは、首を横に振りながら答える。


「ううん、へいき。さっぱりする」

「そうかい。……さて。前は、自分で拭きなさい。僕は、シャワーを浴びてから上がるから。くれぐれも、膝を拭く時は擦らないように」

「はぁい」


 ニースは、背後からガッタに乾いたバスタオルを渡すと、受け取ったガッタは、それで胸から下を覆うように巻き、クルッと振り向き、腰から下をタオルで巻いて隠しているニースの上半身をチラ見してから、すぐにバスルームを出た。

 ニースは、ガッタのシルエットが消え、足音がしなくなったのを見計らい、バスタブの淵から立ち上がってタオルを外し、それを壁のフックに引っ掛け、シャワーを浴び始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ