031
「あの二人、どこまで行ったんだろう。あぁ、腹減った」
「ちょいと。勝手に食べ始めようとしないでちょうだい」
両手を頭の後ろに組んで仰向けになっていたシュヴァルベは、起き上がってバスケットの蓋を開けようとした。しかし、すぐにルナールがそれに気付き、シュヴァルベの手をパシッと尻尾で叩いた。
「そんなに空腹なら、その辺の羽虫でも捕まえたら?」
「スワロー属だけに? 胃腸の構造は、姉ちゃんたちと変わらないから、さすがに消化できないと思うなぁ」
姉弟で静かな攻防線を繰り広げていると、ガッタとニースが戻ってきた。二人の頭の上には、シロツメクサの丸い花冠が乗っている。ルナールとシュヴァルベは、すぐに花冠の存在に気付いた。ルナールは二人の仲の良さを実感して微笑みを浮かべ、シュヴァルベは二人だけ楽しんでズルいと眉根を寄せた。
ここで、話を小一時間ほど前に戻そう。
小川の畔からカバノキの木蔭に移動したニースは、長座で開いた足の間にガッタを座らせ、周囲に生えているシロツメクサを摘み、花冠の作り方を教えていた。
「こうやって、クロスした部分を押さえながら茎を編んでいくと、長く連ねることができる。……それで、ある程度の長さになったら、最初の花と最後の花が重なるところを一本の茎で結び止め、一つの輪にして編み終える。……最後に、輪からはみ出ている茎を適当な隙間に編み込めば、花冠が完成だ。やってごらん」
「わかった!」
ニースは説明しながらシロツメクサを編み、出来上がった花冠はガッタの頭の上に乗せた。ガッタは、適当にシロツメクサを引きちぎると、二本を交差させ、ハタと手を止めた。
「はじめ、どうするんだっけ?」
「今、右手に持ってる方が上に来てるから、それを奥から二つの花の又に通して……」
そう言いながら、ニースはガッタの小さな手に自分の大きな手を添え、茎を結んでいく。二本三本結んだところで、ガッタ一人でも出来るようになり、ニースが見守る中、無言のまま作業に没頭した。
「そんなに長いと、頭囲を超えて冠にならない」
「これでいいの。……よし、できた!」
しばらく熱中していたガッタの手元の花冠は、子供の頭囲を超える長さになろうとしていたので、ニースはストップをかけた。しかし、ガッタは、そこから更に花を足し、一つの大きな輪にして結び終えた。
首から下げるつもりだろうか。ニースが疑問に思っていると、ガッタは立ち上がって振り向き、持っていた花冠をニースの頭の上に乗せた。
「ニースも、おそろい」
「なるほど。僕のために編んでいたのか」
ニースは、ガッタの意図が分かって納得すると、花冠を落とさぬよう片手を添えながら立ち上がり、ガッタの手を引いてルナールたちが待っている場所へと戻ることにした。




