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木々がざわめきを立てながら、緑の丘を爽やかなそよ風が抜けていく。
ギンガムチェックのラグを敷かれた上で、シュヴァルベが大の字に寝そべっている。ラグの上には他に、赤ずきんが持っていそうなランチバスケットと、ピクニックハンパーが二つ置いてある。
ルナールはピクニックハンパーを開け、中の食器類に瑕や欠けが無いか確かめつつ、ぐったりしているシュヴァルベに声をかける。
「なんで発案者のあなたが、真っ先にくたびれてるのよ」
「サディスティックな誰かさんが、ピクニックハンパーを二つも持たせるからだ。俺の腕は、翼を出して飛ぶ力はあっても、持ち上げたり運んだりする力は無いんだぞ」
若いくせに、だらしない。ルナールは内心でそう思いながら、今度は陽に透かしてグラスの具合を確かめる。
シュヴァルベが休憩し、ルナールがランチの準備を進めているあいだ、ガッタとニースは、少し離れた小川の畔で遊んでいた。川面はキラめき、清流を小魚たちがスイスイ泳いでいる。
「こんどは、まけないんだから」
「そうかい。それならヒントを出そう。この遊びは、後手が必ず勝てる方法がある。さぁ、このあと、どうする?」
花弁が十七枚のマーガレットを摘んだニースは、そこから隣り合わせの二枚を減らし、十五枚にしてガッタに差し出す。ガッタは花弁の数を指で数え、ニースが取った位置から八枚目の花弁を取る。
「これで、どう?」
「参りました」
「やったー!」
一枚だけか、隣り合わせの二枚だけを取っていき、最後の花弁を取った方が勝ちという、この遊び。後手が左右対称の形に持ち込めば、先手が勝つ方法は無いのである。
ニースは、花弁が三枚減ったマーガレットをガッタに渡した。ガッタは、ニースに勝てた喜びで小躍りしながら水際に近付き、受け取ったマーガレットを川に浮かべた。マーガレットは、時々小石に遮られながらも下流へ向かい、やがて浮力を失って川面から姿を消した。
マーガレットが見えなくなると、ガッタは立ち上がったニースの側へ寄り、スラックスの裾を軽く掴みながら言う。
「ほかのあそびは?」
「そうだねぇ……」
違う遊びをせがまれたニースは、視線を左右に向けて何かないかと探し、木蔭にシロツメクサが群生しているのに着眼した。




