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キッチンでハニーレモンを飲んだニースは、ルナールに簡単に礼を言ったあと、一人で書斎へと戻って行った。ルナールは、鍋の残りを気にしているガッタに、余ったハニーレモンを飲ませ、そのあと後片付けを手伝わせた。
片付けが終わると、ルナールはマフラーを持ち、ガッタと二人で使用人部屋へと移動した。
「あとは、糸の先を裏へ引っ張って表から見えなくしたら……はい、完成」
「わぁ! なおってる」
かぎ針で毛糸の先を始末すると、ルナールはマフラーを表に返し、ガッタの首に巻いた。ガッタはマフラーの端を手に取り、元通りになったのを確認しながら歓声を上げた。
ルナールが、素直な喜びように目を細めつつ、かぎ針をソーイングボックスに戻し、眼鏡をエプロンのポケットに戻そうとした。その時、ガッタは関心をマフラーから眼鏡に移し、ルナールに言う。
「なんで、それをつけるの?」
「えっ? あぁ、眼鏡のことね。歳を取ると、細かい物が見えにくくなってくるからよ」
「つけると、みえにくくないの?」
「そうよ。眼鏡を掛けると、細かいところまで見えやすくなるの」
「へぇ~。つけてみたい」
「良いわよ。でも、ガッタちゃんには、まだ早いんじゃないかしら」
ルナールは眼鏡を取り出し、テンプルを広げ、ガッタの鼻と耳に合わせて掛けた。ガッタは、眼鏡を掛けたまま上を見たり横を見たりしたが、すぐに眼鏡を外してルナールに返し、両手でこめかみのあたりを抑えながら言う。
「すっごく、ふわふわする」
「うふふ。くらくらしちゃったのね」
微笑みを浮かべつつ、ルナールは再び眼鏡をポケットにしまう。ガッタは、しばし頭を押さえていたが、やがて平衡感覚が戻り、話題を変えた。
「ねぇ、ルナール。わたしも、みつあみできるかな?」
「三つ編みにしたいの? そうねぇ。ニース様みたいにお下げにするには、もう少し長さが無いと難しいけど、横髪を編み込むくらいなら出来そうね。編み込みでも良いかしら?」
ルナールが黒髪の長さを手で触って確かめながら言うと、ガッタは頷きながら言う。
「あみこみにして。ルナールにおまかせなの」
「はいはい。それじゃあ、可愛くしてあげるわね」
このあと、ルナールの手によって横髪を編み込まれたガッタは、温室に居たニースに髪を見せた。ニースとおそろいと言われ、一瞬、ニースは髪形が違うと反論しようとしたが、無邪気に喜ぶ顔を悲しませまいとして反証材料を胸にとどめ、やや照れ臭そうにしながらも、似合っていると口にしたのであった。




