023
ブレックファーストのあと、ルナールはキッチンで後片付けをしていた。
布巾で水滴を拭き取ったグラスを日に透かし、洗い残しが無いのを確認してから食器棚にしまい、続いて銀食器を片付けようとしたところへ、ニースがやってきた。
ルナールは、片手で喉を摩っているニースに声をかける。
「ハニーレモンでも作りましょうか?」
「あぁ、頼む。寝起きから、どうも喉の調子が良くない」
ニースは、作業台の近くにあった丸イスを持ち、壁際に置いて腰を下ろす。ルナールは、食品棚の中段のカゴからレモンを、下段の木箱からビンを取り出し、作業台の上に置く。
「慣れないことをしたからではありませんか? ガッタちゃんから聞きましたよ。人魚王子と人狼姫のお話」
「お喋りだな。他言無用だと言ったというのに……コホッコホッ」
「ガッタちゃんは、ちゃんと言いつけは守ってましたよ。ニース様に言ってはいけないと言われてると言ってましたから」
「意味が通じてないな」
「そういうものですよ。あんな小さな子に秘密を守らせようとする方が、無理というものです」
ルナールは、食器棚から鍋とナイフを取り出すと、鍋を作業台の上に置き、その上でナイフを片手にレモンを手際よく適当な厚みにスライスしていく。ニースは壁に背中を預けつつ、その様子を見るともなしに見ている。
そこへ、首から外したマフラーを手にしたガッタが駆け込んでくる。
「ルナール、みっけ。あっ、ニースもいる!」
「熱が引いた途端、いつもの調子に戻ったな」
「私に何かご用?」
すっかり元気になったガッタに、ニースが思わず感想をもらす傍らで、ルナールはエプロンの端で手を拭き、ガッタが差し出すマフラーを受け取りながら言った。
ガッタは、マフラーの端を指し示しながら説明する。
「ここ、どんどん、いとになるの」
「あらら、大変。ほつれてきちゃったのね」
「ほつれると、どうなるの?」
「ながーい一本の毛糸に戻っちゃうの。でも、安心して。これくらいなら、編み直せば元に戻せるから」
「よかった」
ガッタは、ルナールにマフラーを預けると、ニースの側へ近寄った。ルナールは、マフラーを邪魔にならない場所に置き、残りのレモンをスライスしていく。
「ここでなにしてるの、ニース?」
なるべく口を開きたくないニースは、ハチミツを加えた鍋に水を張って火にかけようとしているルナールに視線を送った。ルナールは、火加減を気にしつつも、ニースの視線に気づき、説明を始めた。




