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「葉は食用には向かないから、直接口に含む必要は無いんだ」
「あまいにおいがするから、つい」
「まぁ、飲み込んでしまったのなら、吐き出さなくても良いが。苦かっただろう?」
「とってもにがい」
ニースは半ば呆れた表情で、ガッタの口元にタオルを当てている。枕元のサイドテーブルには、銀盆には、食べかけのスープとスプーンが乗っている。スープの中には、三分の一ほど齧られた薬草が浮かんでいる。
ガッタの周囲には、ルナール特製のぬいぐるみたちが鎮座している。暖炉では、時々パチパチと枝や薪が爆ぜる音を立てている。
「食事の続きは、あとにしよう。しばらくは、何を飲んでも苦く感じるだろうから、横になっていなさい。してほしいことがあったら、このベルを鳴らしなさい」
そう言って、ニースはベッドの下からハンドベルを出してサイドテーブルに置き、銀盆を持ってベッドの端から立ち上がろうとした。すると、ガッタはニースのシャツの袖を掴み、潤んだ瞳で端整な顔を見つめながら懇願する。
「ニースも、いっしょにねて」
「それは、できない。不安なら、ぬいぐるみたちを抱いて寝ると良い」
「ううん。それじゃ、だめなの。おねがい!」
「弱ったな……」
逡巡しつつも、上目遣いで今にも泣きだしそうな表情で訴えてくるガッタに負け、ニースは靴とソックスを脱ぎ、首元まで締めたシャツのボタンを一つ二つ外しながらベッドに足を上げる。
「添い寝するだけだからな。リボンを借りるよ」
「うん。ありがとう、ニース」
ガッタがニッコリ微笑んでいる横で、ニースはぬいぐるみの首元からリボンを解き、白糸の滝のような髪を二房に分け、左手側の房を適当に編み始める。
すると、ガッタも真似してぬいぐるみの首元からリボンを引き抜き、ニースの右手側の房を掴んで言う。
「ゆっくりやって。こっち、やってあげる」
「イテテ……。教えるから、そんなに引っ張らないでくれ。細いから、切れやすいんだ」
「あっ、ごめん。ニースのかみ、サラサラしてるね。きもちいい」
ニースが片眉を吊り上げ、わずかに不快感を表したのに気付き、ガッタは房を掴む手を一旦離した。それから、そーっと持ち直し、髪の間に指を通して上から下へ動かしながら、うっとりとした表情で言った。
ニースは、微笑ましさから緩みそうになる表情筋を持ち堪えつつ、途中まで編んだ髪を手放し、手櫛で均してからレクチャーを始める。
「いいかい。三つ編みを作るときは、まず、髪を同じ太さの三つの束に分けるんだ」
「わかった。みっつにするのね」
このあと、不格好ながらなんとか形になると、ニースは胸から下を毛布の中に入れ、毛布の上からガッタの懐をトントンと軽く叩いて入眠を誘い始めた。




