019
ルナールがあいだに入ったことで、ガッタとニースの関係は修復された。
だが、その週末の朝になって、別の問題が発生した。
「ガッタ。もう、ブレックファーストの時間だ」
『んん~』
「どうした? 部屋に居るんだろう?」
ニースがノックをしてからゲストルームに入ると、ガッタはベッドの上で毛布に包まり、まるで求肥で粒餡を覆った豆大福のような状態で丸くなっていた。
ニースは、中で低く唸っているガッタの奇妙な行動に首を傾げつつ、毛布の下から溢れている黒髪をヒントに、端をめくって顔色を窺おうとした。ところが、ガッタは中から毛布をしっかり掴んでいるようで、めくり上げる前に阻止されてしまう。
「こら、ガッタ。手を離しなさい」
「や~。わたしは、ロールパンのようせいなの」
「訳の分からない抵抗をするんじゃない」
引き出せないなら、自分から出たくなるように仕向けよう。そう考えたニースは、毛布を覆うように、さらに掛布団で包んでいった。
すると、内部の熱が逃げないのと息苦しいのとで、ガッタは毛布の下から這い出てきた。
「っはぁ。なにするのよ、ニース!」
「何をしていたのかは、こちらが聞きたいくらいだよ。――おや?」
パジャマ姿で、寝癖がはね放題のガッタを、ニースはまじまじと見つつ、ベッドの端に腰を下ろし、隣へ呼び寄せた。
「ここへ座りなさい。目が充血している」
「へ? ジューケツってなぁに?」
「いいから、座りなさい。……微熱もあるようだ」
「ビネツ?」
スリッパを探していたガッタが振り返り、横へ座ると、ニースは片手の甲をガッタの額に当て、おおよその体温を測定した。
「しばらく、大人しく寝ていなさい。ブレックファーストは、ここへ持ってくる」
「なんで? ねむくないのに」
「君は今、風邪を引いている。悪化させると肺炎になってしまい、いよいよ病院へ行かねばならなくなる」
「ビョウイン」
「病気になった者が、大人しく治療に専念するために集められる場所だ。そこでは自由に出歩くことも、好き勝手に遊ぶことも出来ないし、食事も味気ない」
「うへぇ。びょういん、いきたくない」
「そうだろう。だったら、変な真似をしないで、熱が下がるまで寝ていなさい」
「はぁい」
ガッタはベッドに上がり、毛布と掛布団を引き寄せて横になった。
ニースは、その二枚の向きを直し、ガッタの肩口に揃えて掛けると、軽く頭を撫でてから部屋をあとにした。




