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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅸ サファイアの月
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 屋敷の中へと探索の場を変えたガッタは、キッチンで人参をすりおろしているカリーネの足元や、ニースがレポートをまとめている書斎に置かれた観葉植物の根元、さらには、編み物をするルナールの横に畳んである生地の上など、片っ端から空いている部屋を入っては、石膏のカラフル卵を発見していった。

 

「……じゅうさん、じゅうし、じゅうご。あと、いっこか」


 達成間近だと思ったガッタは、廊下の隅や出窓のカーテンの下など、卵が置けそうな場所を念入りに確かめて回ったが、どこにも見当たらない。困ったガッタは、もう一度、外へ出て庭を見て回ったが、もちろん、そこにも卵は無い。ガッタは、再び屋敷の中へと戻り、卵をバスケットから出してソファーの上に並べて数えたが、当然、いくら数え直しても、一つ足りない事実には変わりない。

 

「サーヴァ、どこへおいたんだろう? ……あれ? このおへや、さっき、あいてたっけ?」


 ガッタは、書斎から程近い場所にある空き部屋の前を通りがかった。その際、いつもは閉まっているドアが半開きになっていることに気付き、ガッタは、そーっとドアを押して中へ入った。

 実は、ほんの少し前のこと。テーブルの上のインクが切れたニースは、替えのインクを探しにこの部屋へ入ったのだが、インクを持って部屋を出る際にアイデアを閃き、忘れないうちに書き留めようと急いで書斎へ戻ったため、鍵を閉め忘れたままにしてしまったのである。


 そんなことがあろうとは知る由も無く、ガッタは空き部屋の中へと入り、真っ先に窓に掛かっているカーテンを開け、部屋の中を見渡した。この部屋は、古くはニースの子供部屋としても利用されていた部屋で、カバーが掛けられたままのベッドの周囲には、埃をかぶった積み木や木馬などが適当に置かれている。

 ガッタは、天井からぶら下がるモビールを興味深く眺めたり、近衛兵の恰好をしたくるみ割り人形と目が合ってビクッと身を縮ませたりしながら、部屋中を隈なく見て回った。その中でガッタは、部屋の片隅に置かれているチェンバロが、何故か自分を呼んでいるような気がしたので、おそるおそる近付いた。


「かわったかたちのテーブルだね」


 チェンバロの上には、スッポリと覆うように深紅のシルクが掛けられているため、ガッタには、それが鍵盤楽器であることに気付かなかった。

 チェンバロのすぐ近くまで寄ったガッタは、装飾が施された側板をノックし、そっと耳を当ててみた。チェンバロは、ピアノの原型と呼ばれるだけあって、中には何十本もの弦が張られているため、叩けばワーンと振動する音が聞こえる。


「なかは、ガラガラみたい。ん?」


 側板から耳を離すと、ガッタはチェンバロを支える猫脚のうち一本の陰に、何かが落ちているのに気付いた。薄暗く影になっている場所で、しかも埃をかぶっているので、それが何かは不明瞭である。だが、ガッタは直感的に、それを拾わなければならない気がしたので、バスケットをチェンバロの上に置き、四つん這いになって下に潜り込んだ。

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