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「エッグ、ハント?」
「はい。見本として、ここに一つだけ実物を用意しました」
そう言って、サーヴァはテーブルの上にあるバスケットの中に、カラフルに彩色された卵を置いた。ガッタは、ポケットから出てきた色とりどりの不思議な卵を見て、コツコツと人差し指で叩いてみたり、至近距離で模様を観察したりしたのち、サーヴァに質問をした。
「このタマゴ、かたいね。ゆでてあるの?」
「いえいえ。これは、本物の卵を型取りして作られたもので、素材は石膏です。手に取ってみると持ち重りがしますよ」
「あっ、ホントだ。おもーい」
ガッタは片手に持つと、軽く上下させて重さを体感した。サーヴァは、落とさないうちにガッタの手からヒョイと卵を取り上げてバスケットに戻すと、遊びのルールを説明した。
「今、この屋敷の敷地内には、これと同じようにカラーリングを施した石膏の卵が、あと十五個あります。それは、どれも鍵が無くても入れる部屋か、もしくは廊下や庭の片隅に隠してあります。ランチが出来上がるまでに、一つでも多くの卵を探してみてください。すべて見つけられたら、ガッタさんの勝利です」
「わかった! タマゴをさがせばいいのね?」
「はい。どの卵も、ガッタさんの手の届く範囲に置いてありますので、決して危険な真似はしないでくださいね。お怪我をされては、遊んでる場合でなくなりますから」
「はーい、きをつけます。それじゃあ、またあとでね!」
ガッタは卵が一個入ったバスケットの持ち手に腕を通すと、勢いよく部屋を飛び出していった。サーヴァは、ガッタが廊下の向こうへと走り去ったのを確かめると、部屋の中へ戻り、キャンディー包みが入れられたガラスボウルの中央に、先程とは逆のポケットから一つの卵を取り出して置いた。
「はたしてガッタさんは、最後の一つがココにあるかもしれないと、ランチまでに考え付くでしょうかねぇ」
灯台下暗し。かつてニースにも同じ遊びをさせ、制限時間ギリギリになってようやく部屋に戻ってきた過去を懐かしく想い出しつつ、サーヴァは新しいグラスをコースターの上に置き、中にグリーンレモンのスライスが浮かんでいる水差しから、ほのかに柑橘類の香りがするミネラルウォーターを注いだ。
「あった!」
サーヴァが部屋で喉を潤している頃、ガッタは庭と温室で早くも三つの卵を見つけた。これで、バスケットには四個の卵が入っていることになり、全体の四分の一が見つかった計算になる。
「うーん。あとは、おうちのなかかな。はやく、みつけちゃおう!」
これ以上、屋外に隠されている卵は無いと決めたガッタは、急いで屋敷の中へと戻っていった。




