016
ブレックファーストのあと、ガッタは応接間に敷かれた毛足の長い絨毯の上で、前転したり側転をしたりして身体を動かしていた。すると、そこへルナールが後ろ手に何かを持ってやってきた。
壁に足を付けて逆立ちしたところだったガッタは、上下反対に見えるルナールの姿を見るや、すぐさま靴下だけの足を絨毯の上に戻し、靴を履くのも忘れて駆け寄った。
「ここにいたのね、ガッタちゃん。お部屋にいないから、お外へ行っちゃったのかと思ったわ」
「えへへ。ゆきがいっぱいいっぱいじゃなかったら、おそとにいけるのにね。なに、もってるの?」
「うふふ。前に言ってたぬいぐるみが、やっと出来上がったの。はい、ガッタちゃん」
後ろに回していた手を前に持ってくると、ルナールの手には、赤い足つきボタンを目に使った黒猫と、緑の貝ボタンを目に使ったキツネのぬいぐるみが握られていた。
ガッタは、ルナールの手からその二つを受け取ると、胸の前でギューッと抱きしめてサイズ感を確かめてから、背中を撫でたり手足の先をフニフニと触ったりして、布の質感や手触りを堪能し始めた。
ルナールは、そんな風にガッタが満足そうにぬいぐるみと触れ合っているのを、菩薩のような温かい目で見守っている。
「これでクマさんに、おともだちができた。ルナール、ありがとう!」
「どういたしまして。大事にしてあげてね」
「うん。だいじにする」
このあと、ルナールはガッタの手を引いてゲストルームへ行き、ガッタは、手にしていた二体のぬいぐるみをクマのぬいぐるみの両端に安置した。
ルナールは、三体のぬいぐるみを見ながら「これで良し」とばかりに頷くガッタに、今度は頼みを持ち掛けた。
「納得してるところ悪いだけど、ちょっとお願いを聞いてくれないかしら?」
「なぁに、ルナール? なんでもいって。できることなら、できるから」
それは、その通りだ。ルナールは、トートロジーじみたガッタの発言に一種の哲学を垣間見つつ、要望を伝える。
「月が変わったら、暖かくなってくるでしょう? だから、暖かい時に着られるお洋服を、今のうちから用意しておこうと思って」
「あったかいときの、おようふく? あったかくなるの?」
「えぇ、もちろん。今は冬だから寒い日が続くけど、あと三週間くらいしたら、少しずつ暖かい日が増えてくるわ。暖かくなれば、またお外で遊べるようになるし、お庭のお花も咲き始めて、とっても過ごしやすくなるわ」
「さんしゅうかん。あとさんかい、サンのひがきたらいいのね?」
「そうよ。賢くなったわね」
ルナールがガッタの黒髪の頭を撫でると、ガッタは照れ臭そうにはにかんだ。
「ふふっ。くすぐったい」
「それで、痩せたら着ようと思って取り置きしたお洋服を、ガッタちゃん向けにリメイクしたらどうかと思って、何着か持って来てあるの。サイズが合わない部分は仕立て直す必要があるし、リボンやレースを着けたり、ボタンを取り替えたりするから、ガッタちゃんに好きなのを選んで欲しいのよ。良いかしら?」
「もちろん! はやく、はやく」
ガッタは、居ても立っても居られない様子で、ルナールの手を引いて廊下へ連れ出そうとした。ルナールは、手を引かれて前のめりになりながらも、ガッタと一緒に廊下へ出て、ゲストルームのドアを閉めてから、使用人部屋へ移動し始めた。




