※Ⅷ章で新たに登場したキャラクターと番外掌編
■グレンツェ
山猫のような耳と尻尾を持つリンクス属の少年
旧市街のスラムで靴磨きをして生計を立てていたところを、同属のミオに拾われた
九歳だが、年齢に見合わぬ賢さと大人びた性格をしている
礼儀正しく働き者だが、遠慮しすぎるきらいがある
同年代との触れ合いに慣れていなかったが、ガッタとの交流で少し改善された。
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■番外掌編「その後のサマーハウスでは」
ガッタたちが帰ったあとのこと。グレンツェは文書庫の本棚に並ぶ背表紙の文字を追い、目当ての本を見つけては、テーブルの上に積み重ねるということを繰り返していた。
そして、左右の棚をひと通り見終わると、イスを積んだ本の近くへ引き寄せ、一番上にある本から順に調べ始めた。詩や小説のように一から目を通すのではなく、目次を見て見当を付けてから、求めている情報が掲載されていないかを探るという具合である。
一般論として、とても子供のすることとは思えないと感じることだろうが、何事にも例外はあるということで、グレンツェは、そういうことが出来る子供だと受け止めて欲しい。
さて。鵜の目鷹の目でグレンツェが文字を追っていると、そこへミオがやってきた。グレンツェが廊下へ続くドアを開けたままにしていたので、通りがかりのミオがグレンツェの姿に気付き、何を熱心に調べているのかしらと思ったのである。
「リンクス属の特徴、少年少女期の心理学、家庭医学の心得……」
「はっ、奥様。何かご用でしょうか? ティータイムには、まだ早いと思うのですが」
「ううん、ちょいと気になっただけ。何を知りたいの、レンズ?」
開いたページを覗き込みつつ、ミオが何気なく問い掛けると、グレンツェは少し頬を赤らめ、照れ臭そうに言った。
「それが、わからないんです」
「わからない?」
「はい。窓から外の海を眺めたり、庭の向日葵に水をやったりしていると、時々、熱に浮かされたようにボーッとしてしまうことがありまして。でも、すぐに部屋へ戻って体温を測っても平熱なんです。だから、何が原因なのかと」
グレンツェが持て余している病気に名称を与えるとすれば、それは、きっと恋患いというものだろう。そう思ったミオは、口元に片手を当てて小さくフフッ笑みをこぼすと、意味深な言葉を残して立ち去った。
「若い頃のニースと同じ反応ね。その答えが分かるまで、あと十年は必要かしら」
「えっ、待ってください! 意地悪しないで、教えてくださいよ」
「ダメよ。自力で見つけなきゃ、意味がないもの。まっ、すぐに命に係わるものではないから、気長に探しなさいな。オホホ」
「それはないですよ、奥様!」
このあとグレンツェは、なんとかミオからヒントだけでも得ようと食い下がったが、ミオは、のらりくらりと躱すばかりで、決して正解を教えなかった。




