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ガッタたちが海に遊びに行っている頃、ミオとニースとカリーネの三人は、グレンツェが用意していったサンドウィッチで遅めのランチにしていた。
「二人とも、もう酔いは醒めて?」
「あぁ。頭痛も収まったから、すぐにでも出掛けられるよ」
「あたしも。ガッタちゃんのことが、ちょいと心配になってきたところだけど」
「問題無いわよ。きっと、あとの三人のうち誰かが、きちんと面倒見てるはずよ」
「ツバメとヒョウが、馬鹿なことをやらかしてくれてなければ良いが」
「あぁ、あの二人ね」
ニースがシュヴァルベとオンサのことを匂わせる言い方をすると、カリーネは、バスルームでのオンサとの会話を思い出し、問い掛けてみた。
「あの二人、あたしには両想いに見えるんだけど、なかなかくっつかないわね。彼女の方は、シュヴァルベくんのことは嫌いじゃないみたいよ」
「だったら、両想いだろう。彼の方も、彼女を好いている。結ばれるのは、時間の問題だろう」
「ニース。たとえ両想いであっても、ままならないことがあるのは、あなたが一番よくしってるじゃなくて?」
「何か、過去に苦い恋愛体験でも?」
「僕のことは、どうでもいい。話をすり替えないでくれ、ミオ」
サンドウィッチを片手に、三人が恋路を気にしているともつゆ知らず。軽食を済ませたオンサとシュヴァルベは、ザザー、ザザーと寄せては返す波の音を聞きながら、ソテツの木蔭で会話を交わしていた。
二人のすぐ隣では、木の幹に背中を預け、こくこくと頭を揺らしながら眠っているグレンツェと、グレンツェの柔らかな太腿を枕にして寝ているガッタの姿がある。元々は、眠くなったガッタに対し、グレンツェが詩を暗唱しながら寝かしつけていたのだが、日頃の疲れが溜まっていたのか、スヤスヤと静かな寝息を立て、安心しきって熟睡するガッタを見守るうちに、睡魔に負けてしまったのである。
「可愛らしいもんね。どんな夢を見てるのやら」
「大量のご馳走を、腹いっぱい食べてるんじゃねぇの? そのうち、料理と間違えて太腿に噛みつくかもよ」
「あんたじゃないんだから、そんなことしないさ」
「俺だって、そんなことしねぇよ。それにしても、子供って、寝顔だけは天使だよなぁ」
「起きたら悪魔になるとでも言いたげなセリフね」
「いや、そこまでの含みは無いって。これが自分の子供だったら、おてんば娘でも小生意気なガキでも大天使様さ」
「そうかしら? 小さいうちに躾けておかないと、大きくなってから手が付けられなくなりそう」
「厳しく躾け過ぎると、捻くれて反抗するようになるか、自分では何も考えられないようになるか、どっちかだよ」
「甘やかし過ぎても、我慢の出来ないワガママに育つわよ」
「じゃあ、あいだを取ってバランスを保つことが大切ってことで。そう考えると難しそうだな、子育てって奴は」
「でも、難しいほどチャレンジ精神が燃えてくるでしょ?」
「かもな」
話がひと区切りついたところで、オンサとシュバルベは、しばし無言で見つめ合っていた。そして、ロマンチックなムードになってきたと勝手に判断したシュヴァルベが、オンサの顎先に指を添えて、ゆっくりと顔を近づけた。




