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クタクタになったシュヴァルベを木蔭で寝かせているあいだに、ガッタ、グレンツェ、オンサの三人は、付近一帯を探索していた。
ゴツゴツした岩場の海水溜まりに集まった色とりどりの魚を観察したり、波打ち際に打ち上げられた流木を砂浜まで引き摺り、ひっくり返して中にヤドカリが隠れているのを発見したり、渚に落ちている形の整った貝殻を拾い集め、そっと耳に当ててみたり。
そうしたことをしているうちに、だんだんと日が高くなり、照りつける陽射しも強まってきたので、三人はシュヴァルベがいるはずの場所へ戻ってきた。
「ただいま~。あっちに、きれいなかいが、いっぱいあったよ! ……あれ?」
「シュヴァルベの姿が無いな。どこへ行きやがった」
「荷物は置いてありますから、そう遠くへは行ってないのではないでしょうか。――あっ、アレを見てください!」
そう言って、グレンツェは岸辺に立ち並ぶ椰子の木の根元を指し示した。指差す先には、三人が戻ってきたことに気付き、広げた翼を振っているシュヴァルベの姿がある。片方の羽根先で上を指して何かを言っているようだが、距離がある上に潮風が吹いているので、まったく聞き取れない。
「何を訴えているのでしょうか?」
「おもしろいものでも、あるのかな?」
「さぁな。ひとまず、向こうへ行ってみるしかないだろう」
なんてことはない。シュヴァルベが見つけたのは、椰子の実である。美味しそうに鈴なりに実っているので、翼を出して上空から木の先端に着地しようと試みたのだが、時より吹きつける突風に煽られ、うまくいかなかったのだという。
「役に立たねぇ翼だな。突風くらい、どうにか躱せよ」
「しょうがないだろう。翼が小さいから、余力が無いんだ」
「ねぇねぇ、グレンツェ。あれ、のぼってとれない?」
「結構な高さですから、難しいと思いますよ。何より、落下する危険がありますから、挑戦しない方が……」
賢明です。グレンツェが、そう続けようとした矢先、オンサは再び靴を脱ぎ、両手両足を器用に駆使して、まるで猿のようにスッスッと登って行った。
「わぁ! オンサ、すごい!」
「慣れた様子ですね。経験者なのでしょうか?」
「下がショートパンツじゃなきゃ、ラッキースケベのチャンスがあるのに。まごうこと無き白だーって。――イテッ!」
煩悩の塊のシュヴァルベの頭上に、オンサが落とした椰子の実が降ってきてジャストミートした。
「スバル、だいじょうぶ?」
「おー。一瞬、ばあちゃんの顔が見えた気がしたけど、平気だぜ」
「出血も腫れはありませんし、冗談を言える気力もあるようですので、命に別状は無いでしょう」
タンコブの一つでも出来ていないかと心配したグレンツェが、その場に座り込んだシュヴァルベの頭部を調べていると、カットソーのお腹にあたる部分をカゴか袋のようにし、中に椰子の実を入れたオンサが、スルスルと降りてきた。
「悪い悪い。なるべくたくさん取ろうと思って欲張ったら、一個か二個落としちまったんだけど、大丈夫だったか?」
「わたしとレンズは、だいじょうぶ」
「ん? あぁ、シュヴァルベに当たったのね。やっぱり、日頃の行ないが悪いから」
「ちったぁ、いたわってくれよ。怪我は無くても、心は傷だらけだぞ」
このあと、穴を開けた椰子の実を片手にココナッツジュースを堪能しつつ、四人は軽食を摂ったのであった。




