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「パン、パン、パンプキンは、カボチャのクイーン~」
作詞、作曲ともにガッタのオリジナルソングを口ずさみながら、デザート皿とフォークを持ったガッタは、陽気にキッチンへと向かった。
廊下からダイニングを抜け、そのままアーチ形に刳り貫かれた部分を通ってキッチンへ行こうとしたガッタだったが、カシュ、カシュと金属同士が擦れるような音がしたため、ガッタは口を閉じて立ち止まり、ひとまずテーブルの上にデザート皿とフォークを置き、そーっと足音を忍ばせ、アーチの陰からキッチンを覗き込んだ。
ガッタの視界からは、ナイフを持ったサーヴァの手元と、赤く染まった布巾、それからオーブンの前で蹲っているカリーネの頭が、キッチンカウンター越しに見える。
「これくらいで、よろしいでしょう。今なら、魚の骨だって切れますよ」
「ダメーッ!」
ガッタは叫びながら、カリーネのそばに駆け寄った。そして、大声に驚いて立ち上がったカリーネの前で両手を広げて立ち、ナイフを作業台の上に置いたサーヴァに向かって言った。
「おやおや。どうしましたか、ガッタさん?」
「ママをきずつけないで!」
「待って、ガッタちゃん。サーヴァさんは、刃こぼれを直していただけよ?」
「へっ? はこぼれ?」
状況の一部を見て、ガッタはサーヴァがカリーネに危害を加えようとしていると勘違いしたようだが、実際は、まったく事情が異なる。
金属同士が擦れる音の正体は、サーヴァが棒ヤスリでナイフを研ぐ音であり、布巾が赤く染まっているのは、魚の下処理をしていたからである。ナイフの切れ味が悪くなったのは、カリーネがパイに使う生のカボチャを力任せに押し切ったからであり、オーブンの前で蹲っていたのは、ディナーに備えて予熱を加えようとしていたからである。
カリーネとサーヴァから説明を受けたガッタは、とんでもない早とちりをしてしまったと感じ、赤面してカリーネの背後に隠れた。
「そうだよね。サーヴァが、そんなことするはずないもんね。ごめんね、サーヴァ」
「気にすること無いですよ、ガッタさん。誤解は、誰にでもあることです」
「そうよ、ガッタちゃん。恥ずかしがらなくて良いわ」
「ずいぶん賑やかそうだけど、何があったのかしら?」
「あっ、ルナール!」
騒がしい声を聞きつけ、ルナールがキッチンへとやってきた。その片手には、紙袋を抱えている。ガッタは、すぐに紙袋に興味を示し、ルナールへと近づいた。
「なにが、はいってるの?」
「お洋服に付けるアクセサリーよ。ガッタちゃんに、好きなのを選んでもらおうと思って」「おようふくなら、もう、すてきなのがあるよ?」
「そうだけど、まだまだ夏は続くし、冬よりずっと身体が大きくなってるから、型紙から新しく作り直した方が良いと思うの。それに、ニース様と海へ行くのでしょう?」
「あっ、そうだった。じゃあ、うみににあうのがいいね」
このあと、ガッタはルナールとともに使用人部屋へ移動し、カリーネとサーヴァはディナーの準備に取り掛かったのであった。




