118
「これは、どういう状況でございましょうか?」
「僕が聞きたい。助けてくれ」
ブレックファーストができたことを知らせに来たサーヴァは、スツールに座っているニースが、ガッタと同じ髪型にされているのを目撃した。ガッタは「にあう、にあう」と喜んでいるが、ルナールは壁に片手を突き、反対の手で口元を抑えながら肩を震わせている。かくいうニースは、喜ぶわけにもいかず、さりとて結び目を解くわけにもいかないため、脳内の感情が混雑して、表情が追い付かない様子である。
サーヴァは、先ほどの主寝室でのやり取りを持ち出し、目前の問題から話の中心をずらした。
「ところで、あのフォトフレームは、どちらに?」
「フォトフレーム?」
「先月、湖畔で写真を撮っただろう? あの時のフィルムの現像が終わって、今朝、届いたんだ」
「げんぞー。なんか、つよそう!」
再び話が逸れる前に、サーヴァは写真についてガッタに簡潔に説明した。するとガッタは、部屋に入ってきたニースが片手に何かを持っていたことを思い出した。
その時にニースが咄嗟にガッタの手の届かない棚に置いたため、ガッタはフォトフレームを指差しながら、その場でトントンと飛び跳ねながら催促した。
「えっ、もうしゃしんできたの? だったら、はやくいってよ。みせて、みせて!」
「話を切り出す前に、ここへ座らせたのは誰だったかな?」
「だれだったかな~」
ニースは、ガッタが追及を逸らそうと白を切ったのを見て、知恵が回るようになってきたと感じつつ、立ち上がって棚の上に手を伸ばし、ガッタにフォトフレームを手渡した。
受け取ったガッタは、印画紙に穴が開くのではないかというほど、食い入るように見始めた。
「おぉーっ。これが、しゃしんかぁ。かがみでみるのと、ちょっとちがうね」
「鏡に映るのは、その時その時に対応したもので、しかも左右が反転した像だからね。それに対して、写真は静止した状態で、モノクロ、しかも、ひと月以上も前の姿だ。違和感があって当然だよ」
「しゃしんって、おもしろいなぁ」
初めて見る写真に、ガッタは興味津々である。そんなガッタのフレッシュな反応に、ニースは学術的な関心を誘導され、心密かに児童の発達心理についての考察を繰り返した。そんな二人を、ルナールとサーヴァは春の陽射しのようなあたたかさで見守っていた。
のほほんとした朝のひとときは、誰もダイニングに来ないことに痺れを切らしたカリーネが息せき切って駆け込んでくるまで続いた。




