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ホテルから届いたカリーネの荷物の受け取り、その後の半日を過ごしたペンション、それから翌朝からの馬車での帰路には、特に大きなトラブルも無く、これといって着目すべきエピソードも無いので、省略させていただく。とりあえず、ガッタたち四者は、無事にサーヴァとシュヴァルベが待つ屋敷に帰って来たのだと認識してほしい。
「ただいま、サーヴァ!」
「お帰りなさい、ガッタさん」
「留守中、何か問題は無かったか?」
「いいえ、ございません。強いて言えば、ルナールの弟さんが来られたくらいです」
ガッタとニースと会話を交わしながら、サーヴァは二人から手荷物を預かる。
「スバル、きてるの? どこ?」
「二階の、書斎から二つ隣にある部屋です。ルナールに用があるようでしたので、先に行くよう伝えました」
「そうか。シュヴァルベの奴は、何の用で来たんだ?」
「そのあたりについては、立ち話で済ませるより、紅茶でも飲みながらお話したほうがよろしいと思うのですが」
「あっ、それいい! サーヴァのこうちゃ、おいしいよね」
ガッタとニースが談話室へ移動し、ソファーに座ってサーヴァが淹れた紅茶を飲みながら話をしていると、自分の荷物を運び終えたカリーネが姿を現し、ガッタの横へ座った。カリーネが荷物を運び込んだ部屋は、ルナールとシュヴァルベが話し合っている部屋のすぐ隣である。
「長らく使って無いって言うから、蜘蛛の巣でも張ってるかと思ったけど、キレイな部屋じゃないか。安心したよ」
「まさか、ガッタさんのお母様が見付かるとは夢にも思いませんでしたが、片付けておいて正解でしたね」
「気が利くよ、サーヴァ。助かった」
「さすが、サーヴァ!」
それから、ガッタ、ニース、カリーネの三者は旅の道中での出来事をサーヴァに話し、サーヴァは、頷いたり感心したりしながら聞き手に徹し、時おり質問を挟んでは、話を引き出した。
「まさか、ガッタちゃんが、こういう結論を出すとは思わなかったんだけどねぇ」
「ママもすきだけど、ニースのことも、だいすきだもん。あっ、もちろん、サーヴァやルナールもだよ」
「おやおや。坊っちゃんも、罪作りなお人ですねぇ。少女の初恋を射止めるとは」
「ライクの好きであって、ラブではないだろう」
「知らぬは本人ばかりって奴だな。ラブはライクから発展するんだよ、旦那」
「ラブ? ライク?」
「サーヴァ、カリーネ。ガッタに変なことを吹き込まないでくれ」
このあと、ガッタたちの楽しげな声を聞きつけたルナールとシュヴァルベも談話室へやってきて、昼下がりのガニュメデス邸には、何十年も聞こえなかった多人数での談笑の声が響き渡ったのであった。




