表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅰ ガーネットの月
11/181

011

 朝食が済んだニースは、再びコートと防寒具を身にまとい、麓の駐在へと移動していた。

 ヤカンを載せたストーブの横で、ニースは折り畳み椅子に座り、事情を説明している。その机の向こう側では、制服を着たオーク属の女性警官が、適当にメモを取りながら話を聞いている。


「ガッタなんて名前の子供は、この辺じゃ聞いたこと無いわ」

「誘拐や失踪の届出もありませんか?」

「それも無いの。ここに届いてないとなると、かなり遠くから迷い込んだことになるわね」

「黒髪で、赤い目をした少女なのですが」

「そんな目立つ子がいたら、すぐに誰かが気付くはずよ。えーっと。どこで見つけたんだっけ?」

「温室の近くにある、古井戸のそばです」

「井戸から出てきたってことは無いの?」

「まさか。あの井戸は、地下水脈に続いてるだけです。いつも水やりに使ってますけど、ヒトは通れませんよ」

「あぁ、そうか。ヒト属なんだったな。サラマンダー属なら、ありうると思ったんだけど」


 このあともニースは、ガッタの身体的な特徴や、性格的な気質、更には、男性保護者の存在があった可能性まで触れ、少しでも有力な手掛かりにならないかと持てる情報を洗いざらい打ち明けた。

 だが、人跡まばらな地に派遣される警官に対し、優秀な人材であることを期待する方が間違っているというものである。何度も同じ話をさせられた挙句、ここで預かるのは厳しいから、出来ればそちらで面倒を見てくれると助かると言われ、丸投げされてしまった。


「長々と失礼いたしました」

「いやぁ、こちらこそ悪いね。力になれなくて」

「いえ。それでは、僕は、これで」

「何かあったら連絡するわ。遭難しないように、気を付けて帰りな」


 ニースは、引き戸を開けて駐在を出た。そして、重い足取りで来た道を引き返し始めた。


「化け物ではあるまいし。井戸から少女が出て来るはずない」


 幽霊にしては存在感が強すぎ、怨恨を抱えているにしては天真爛漫すぎるガッタの姿や行動パターンを思い浮かべつつ、ニースは山道を注意深く歩きながら、脳内で新たな可能性を考え始めた。

 ガッタは、どこから来たのか。ガッタは、何者か。ガッタは、どこへ行くべきか。正解へ辿り着かない疑問ばかりが、粉雪のように次々と頭の中に累積していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ