4話
「セシリア、あまり気を張らずに、無理をするな」
「第一王子殿下もきっとセシリアちゃんの可愛らしさに、そのうち気づくわよ」
王家からの報告によってセシリアとヒューバートとの仲が芳しくないことに、セシリアの両親も気をもんでいた。
セシリアはそれを知っているからこそ心配を掛けたくなくて笑顔で出立する。
「はい。それではいってまいります」
そして王城へと向かう馬車の中で、独り言ちる。
「早く、ヒューバート殿下と仲良くならなければ、お父様とお母様に心配をかけてしまうわ」
月に一度はヒューバートとお茶会をする席が設けられるようになり、いずれ結婚するのだからと仲良くなれるようにと配慮がなされた。
ヒューバートとセシリアが好む茶菓子が用意されたり、おもちゃが用意されたりしたが、結局のところヒューバートがそれらに難癖をつけては、セシリアを煙たがっていた。
執事や侍女達も、どうして頑なにセシリアを嫌がるのだろうかと疑問に思っていたが、おそらく肌で、セシリアの真面目な性格や、王国の未来を見据えて王妃になる覚悟をもって婚約者になったことなどを感じとっているのだろう。
セシリアのそうしたところが煩わしそうにする節があった。
そんなある日の事だった。
セシリアは待ち合わせのお茶の時間よりも早めに王城へと到着すると、ヒューバートが来るまでの時間を王城の図書室で過ごしていた。
自分の屋敷の書庫よりもやはり王城の書庫の方が、豊富に本が揃えられており、それを読むことは学びにもつながる為、セシリアは好んで図書室にも通っていた。
「あら? シックス殿下?」
本棚の本を一冊手に取り、窓の外を不意に見た時であった。
木の陰にシックスの姿が見えた気がして、セシリアは足を止めると、窓へと近寄りシックスの姿を見ようとした。
ヒューバートがお茶会に来ない時など、シックスと過ごす時間の方が多くあり、親しくなってきていた。
だからこそ挨拶に行こうかと思ったのだが、その姿に、セシリアは息を呑む。
「え?」
シックスはボロボロになっており、悔しそうに顔に着いた泥を、手で拭っていた。
セシリアは慌ててシックスの元へと向かうと、水場で顔を洗うシックスへと声をかけた。
「シックス殿下。どうしたのですか?!」
後ろから突然声をかけたのだろう。水を滴らせたシックスは、驚いた表情で振り返り、一瞬固まった。
「せ……セシリア嬢?」
「はい。シックス殿下どうしたのです?」
シックスは焦った様子で口ごもると、恥ずかしそうに視線を反らした。
「いえ、ちょっと、転んだだけです」
「転んだ?」
どれだけ派手な転び方をすればそんなにボロボロになるのだろうかと思いながらも、セシリアはハンカチをシックスへと差し出した。
「お医者様に見せましょう。着替えもしなければなりませんね」
セシリアはそういうと、傍に控えていた侍女達に声をかけ、シックスの世話をさせようとしたのだが、シックスはそれを手で制した。
「いえ、大丈夫です。今から部屋に帰って自分でしますので」
「え? ですが」
「大丈夫です。その、ご心配には及びません。それにハンカチも結構です」
その言葉にセシリアはおせっかいが過ぎただろうかと不安に思ったのだが、シックスは笑みを浮かべると言った。
「いや、心配していただくのは、その、ありがたいのですが、ハンカチが汚れてしまうのは忍びないです」
「まぁ。ふふ。ハンカチは汚れを拭くためにあるのですよ。さぁ、どうぞ」
セシリアはさっとシックスの顔をハンカチで拭い、それを手渡した。
シックスは驚いたような顔をしたのちに、くすりと笑った
「ありがとうございます。では、ハンカチ、ありがたく使わせていただきます」
「えぇ。それで、どこで転んだのです?」
その言葉にシックスは笑顔で答えた。
「実は、裏庭の大きな木に一度上ってみたいななんて思っていまして、そしたら、そこから滑って落ちたんです。でもこれは内緒ですよ? 怒られてしまいますから」
「まぁ! 怪我は!? 大丈夫ですか?」
「もちろん大丈夫です。ほら、ね?」
そう言ってシックスはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。そんな様子にセシリアはくすくすと笑い、シックスも微笑んだ。
「でもこんな格好では失礼なので、部屋に帰って着替えてきますね」
「えぇ。わかりました」
「では、失礼します。お時間があれば、後でまた会いましょう」
「はい」
歩き去っていくシックスの後姿を見送りながら、ふとセシリアは思う。
「でも、なんであんなに悔しそうな顔をされていたのかしら」
「そりゃあ、黒目黒髪は嫌われるからだよ」
「え?」
振り返ると、そこにはにやにやと笑うヒューバートの姿があった。
「ヒューバート殿下にご挨拶申し上げます」
「あぁ。セシリア嬢。君は知らないだろうが、あれは王城でも嫌われているんだ。だから、あぁいうめに合うんだよ」
自らが使用人らに命令してやらせたとは言わず、ヒューバートはそういうと立ち去って行ったシックスの方を見つめながら、楽しそうに笑う。
「え?」
「黒目黒髪なんて不気味だろう? だからさ。っふ。お前も嫌いなら」
「まさかそんな無知な理由でシックス殿下を傷つけた者がいるというのですか!?」
「え?」
セシリアの表情は怒気に満ちており、化粧がしっかりとされたその顔は、威圧感を放っていた。
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