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君は戦え。俺は推す。えっ俺も戦うのかよ。

魔王と勇者の戦いの裏で ~ゲーム世界に転生したけど友人の勇者が魔王討伐に旅立ったあとの国内お留守番(内政と防衛戦)が俺のお仕事です~(涼樹悠樹)

https://book1.adouzi.eu.org/n1219gv/



 2025年12月に発売された「第7巻下」はWeb版で言うと第223部分(━━218━━)あたりまでで、そのあとがきによると、次巻でWeb版の先に行ってしまうのでWeb版を進めないと……ということでした。Web版と書籍版第7巻上下の感想です。


 主人公ヴェルナー・ファン・ツェアフェルトは自分の知っているゲーム世界に転生しましたが、転生先は魔王でも勇者でもなく、あまり武勇の評価がない伯爵家の跡取りに生まれます。生まれますと言うと語弊があって、馬車事故で前世を思い出すのと入れ替わりに兄を失い、継嗣となったのです。


 持っているのはゲーム知識、個人レベルではある程度強い「槍使い」スキル、広く浅い前世知識。そして貴族子弟を中心に通う王都学園で、ヴェルナーは勇者マゼルと無事に出会い、友人となります。


 ヴェルナーにとってちょっと問題なのは、ゲームのストーリー進行を知っているのはいいとして、ゲームではナレーションですっ飛ばされる都市壊滅・地域壊滅・暗殺等々のイベントについて、原因も実相もわからないことがしばしばあることです。そして伯爵ながら典礼大臣を務め王の信頼厚い父の下、ある程度の財力とコネクションがあり、逆に貴族継嗣ゆえに逃れられない義務や動員もあります。情報収集でも戦闘でも嘘の流布でも、ヴェルナーは集団の指揮者として「勇者を無事に生き残らせ、政治的な横やりから守る」手を打っていきます。個人的には「田舎でうだうだ怠けたい」と思っているのですが、勇者がしくじれば世界が滅ぶと知っているので怠けられません。指揮官や組織者として地味ながら重要な動きをするので注目され、心ならずも有名人になっていきます。「転生したら水戸光圀だったので全力で弥七を」いやいやいやいやそうではなく。


 ヴェルナーが属するヴァイン王国の指導者集団は、王こそ高齢ですが、壮年の王太子を中心として聡明で抜け目なくぴったり心を合わせ、そしてラノベによくあるように、「善い国境は古い国境だけだ」といった調子で他国に対し抑制的です。ヴェルナーにとっては(無理は振ってくるけど)頼りになる上司たちで、魔法より知識よりこれが最大のチートであるかもしれません。


 ヴェルナーはほぼ魔法が使えません。ゲーム知識と現代人の理系常識、そして多少の無茶を組み合わせて敵の企みを見抜いてつぶし、ゲームなら壊滅していただろう戦いに逆転勝利します。直接的な攻撃力に特別なものはないので、勝利のためにあらゆる奇襲、術策、チート知識が重層的に使われ、足りない分は身体的リスクで支払って、同時代人からは(体も張る)策士ないし軍師として扱われます。


 マイソフの記憶の範囲で、軍事的・歴史的なウンチクが盛り込まれている密度は小説部門オールタイムでネット最高レベルです。しかしそれらを全部抜いても、ロジカルな敵との駆け引きが相当に面白く、読み飛ばすところがどこにもないので全編追っかけるのはつらいです。さりげなく置かれた伏線が忘れたころにカードオープン……ということもよくあります。


 ウンチクの話を先にしてしまいましたが、中世は長いので最初と最後でだいぶ違うとか、貴族制度は欧州内でも地域で結構違うとか、まとまった量の勉強をした人が持つ「歴史観」があって、個々にはアラもあるのかもしれませんが、安定した整合性を感じます。兵士生活を中心に生活史・社会史の知識と、それを踏まえた独自設定は読みごたえがあって、元ネタに気付いたのは「裏崩れ」の賤岳合戦記と「兵士の塩を減らす」李左車の史記淮陰侯伝……すみません嘘つきました。どちらも司馬遼太郎作品で読んだ記憶しかありませんが、たぶん日本語じゃない欧州史の本や論文も広くあさっておられるのでしょうね。


 伏線とロジックを大切にする作品の宿命として、主人公がピンチなのに何か安心感が漂ってしまうのですが、善意への最終的な信頼感が漂っているということでもあり、私などはストレスなく読み進められます。


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